二重の意味で深刻な、自民党の凋落と劣化

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二重の意味で深刻な、自民党の凋落と劣化

塩田潮

 改造内閣の新布陣で秋の臨時国会に臨み、唱え続けている「政策の実行」を形にする。実が上がれば、そこで解散・総選挙に打って出るというのが現在の福田首相の基本戦略だろう。

 首相が臨時国会に持ち出す予定の「政策実行プラン」は、当初はインド洋給油法の延長、消費者庁新設、三月に表明した道路特定財源の一般財源化の実現、民主党分断も見据えた自衛隊海外派遣の恒久法の4つだった。ところが、総選挙対策の思惑もあって与党内で「大型補正予算で景気対策を」という圧力が高まった。ばらまき批判を気にする福田首相も「容認」に傾きつつある。
というのも、福田首相は2つの難題を抱えているからだ。

 一つは「北海道全滅」「大物も軒並み落選の危機」など、全国各地から届く自民党大苦戦の総選挙事前調査の報告だ。一時的な不人気ではなく、伝統的支持層の離反など自民党崩壊現象が原因と見られているから、頭が痛い。もう一つは公明党の動きで、大型補正の旗振り役となり、インド洋給油法延長ノーの姿勢を明確にする。矢野元公明党委員長の参考人招致問題などで揺さぶりをかける小沢民主党の高等戦術が効き目を発揮している面もあるが、いまや福田離れは、もしかすると連立見直しもというところまで進んでいるかもしれない。

 自民党崩壊現象は「新しい自民党政治の全体像」を明確に国民に示すことができず、弥縫策の「政策の実行」でお茶を濁している点にある。「自民党政治に明日はない」と多くの国民が見限り始めているのだ。
 こうなると、もはや野党転落を想定した上で、政権再奪還の青写真とシナリオをじっくり構想する有力政治家の台頭を待つしかないが、いま自民党を見渡しても、そこまでの長期戦略を描いて将来の自民党を考える人材は、中堅・若手にもほとんど見当たらない。自民党の凋落と劣化は二重の意味で深刻である。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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