地銀動乱--追い込まれる下位行、入り乱れる陣取り合戦
次の再編の焦点 地銀「4兆円クラブ」
では、次の地銀再編の焦点はどこなのか。08年3月期の地銀決算を概観すると、ある構図が浮かび上がる。
08年3月期の損益は、109地銀中13行が最終赤字になる一方、本業収益であるコア業務純益は24行が増益を確保した。表(預金平均残高ランキング)のように、預金平残が3兆円以上には赤字行は一行もないのに対し、1兆円以下では7行が最終赤字となった。
地銀同士の格差は拡大する一方だ。資金量が小さい地銀は主力業務である資金利益の規模が小さい。今回のように金融市場の混乱が直撃すると、収益の厚みがない中小地銀はひとたまりもない。資金量が大きいほど収益基盤に厚みがあり、地銀再編時代を生き残ることができる--。「4兆円クラブ」あるいは「8兆円クラブ」といわれるゆえんだ。
地銀を襲った「前門の虎」が08年3月期の保有有価証券の関連損失だとすれば、「後門の狼」は今期以降の不良債権の増大だ。
「地方の建設や運輸業は非常に厳しい。経済環境を考えれば、これから不良債権はじわじわ増えてくる」
このように語るのは、投資ファンドの幹部だ。地銀側も、抱えている不良債権の売却に抵抗感が薄れてきている。「今は金さえあれば、案件が多く(投資の)チャンス」という。再生ビジネスを手掛けるプレーヤーは米系ファンドの失速で競合相手が減り、追い風も吹く。
「そのうち気がつく人が出てくるだろうが、“あれ”は大変なこと。延長されなくて、本来手を打たなければならない地銀は本当に大丈夫ですか、という金融庁のメッセージだ」と、ある金融関係者は警告する。
「あれ」というのは、ほかでもない。3月の金融機能強化法の廃止のことだ。いわば公的資金を「餌」にして再編を促す狙いで導入されたが、実績は紀陽ホールディングスと豊和銀行の2件。同法の廃止によって、予防的に公的資金を注入する手段がなくなり、公的資金注入スキームは「破綻」と認定された銀行に資金注入する預金保険法だけになった。
苦戦する民間資本調達 大手行、野村はどう動く?
公的資金に頼れなくなった地銀は今年3月、池田銀が三菱東京UFJ銀行を引き受け先に300億円の優先株を発行。次いで、単体自己資本比率が7.33%に急低下した西京銀行が地元の取引先企業など39先を引受先に27億8000万円の優先株を発行した。さらに、経営統合する北都銀は荘内銀に対し、80億円の優先株を発行する予定だ。特に西京銀は非上場の私募。当初30億円の調達を目指したが未達に終わり、資本調達に苦戦した跡がうかがえる。
一方、資金の出し手としては、新生銀行が過去、大東銀行や東和銀行の発行する転換社債型新株予約権付社債や優先株を引き受けた。同行の加藤正純副社長は「狙ったわけではなく、縁あってファイナンスや人を送ることになっただけ。特定地銀にコミットする気はなく、銀行買収も今考えていない」と語る。調達資金の15%を地銀に依存しているあおぞら銀行の稲垣裕志専務は「接着剤として役に立ちたい。資本増強支援は柔軟に検討する」と言う。詳細は非公表だが、劣後ローンの形で複数の地銀に資金を供与している模様だ。
今年10月に民営化する日本政策投資銀行も地銀ビジネスに本格参戦する。リテール預金という調達手段を持たない同行にとって、地銀との取引は死活問題だ。「巨鯨」ゆうちょ銀行はスルガ銀行と組み、信用市場へ本格的に進出し始めた。
そして、足利銀行の受け皿になった野村グループがどう動くか。グローバル・マーチャント・バンキング部門の永松昌一CEOは「銀行業を経営する気はないが、野村が再編にまったくかかわっていないのはどうかという思いはある」と漏らす。
「いい地銀ほど危機感が強い」。ある大手行の金融法人担当役員は、地銀訪問を重ねるごとに意を強くしている。最近訪問した九州の地銀幹部からは「5年後には絵図が変わっている」と聞かされたという。
5年後、あるいは10年後に生き残る地銀はどこなのか。地銀再編のファンファーレが鳴り響く。
(金融ビジネス編集部)
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