さらに、被災した熊本市の熊本城でさえ、今年の春も二の丸広場でお祭りを開催していました。市民にとっては、お城というシンボルとなる場所で桜をみながら酒を酌み交わして語り合うことの価値がそこにあります。例年も城内で行っていたとはいえ、昨年の被災で石垣などが崩壊し、修復は進んでいません。にもかかわらず自粛などはせず、二の丸広場を活用したのです。もちろん飲酒ブースは大人気でした。
海外に目を転じると、さらに大きな潮流になっているのがおわかりいただけると思います。ヨーロッパでは美術館や博物館で「期間限定バー」や「夜間フェス」などが開催されたりしています。
フランスでは、世界遺産である、あのヴェルサイユ宮殿の一部が、なんとホテルとレストランとして貸し出され、レストランでは超有名シェフであるアラン・デュカス氏が当時の宮廷料理を提供することになっています。
当然、最高のフレンチが出されるのに、お酒(ワイン)が提供されないなんてことはありえません。貸し出す際の賃料は、年間100万ユーロ(約1.3億円)と言われ、500万ユーロ規模にものぼる年間の修復予算の一部として活用されることになっています。
このように、歴史資産もそのまま保全するのではなく、時代にあわせて発展的に効果的に活用し、その収益で歴史資産の保全を持続可能な形で行うのも一つの流れです。
今回の松本城公園の一件は、収益金の一部をお城の修復基金などに寄付するなど、もっと折り合える点もあるはずです。
松本市の教育委員会の対応は、さまざまな公共の資産活用を推進することで市民の娯楽機会を確保したり、切迫する財政の中でも歴史施設の持続的な財源を確保するなどの工夫をする国内外の流れに、逆行していると言わざるを得ません。
ネットや市役所にもさまざまな問い合わせが入ったこともあり、実行委員会側と市役所側とで7月31日に協議が持たれたようです。実行委員会側の発表として、市側が「飲酒=品格がないといったつもりはないが、誤解を与えたことや関係団体との調整不足、さらには、より開かれた協議を行うべきだった」と反省し、来年度の開催について協議することになったとのことです。
とはいえ、今年度の開催については中止が決まってしまったわけですし、恐らく地元紙やネットで話題にならなければ、このような協議を持つことにもならなかったでしょう。正当な理由もなく中止を要請したのは事実であり、市側は一連の混乱を重く受け止める必要があります。そもそも、誤解を与えるような曖昧な規定が承認されること自体が異常です。
今後、松本市のみならず全国各地でこのような不可解な判断がなされないよう、今回の件については猛省し、今後しっかりとした公園利用に関する制度について議論がなされることに期待します。「品格」などという曖昧な基準ではなく、しっかりと制度・法律に基づく明瞭な公共性判断が行われ、多くの市民が活用できる公園となっていくことが望まれます。
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