日本人の土地相続は根本から崩れ始めている 誰のものかわからない「所有者不明問題」の闇

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さらに、山形県鶴岡市が2015年に市内の空き家2806棟について所有者の意向調査を行ったところ、479件は所有者不明などでそもそも調査票が送付できず、また宛先不明で返送されたものも142件あった。

このときの報告書では「老朽危険度が高い空き家ほど、宛先不明や未送付の割合が高くなる傾向」「相続がなされておらず所有権が確定していない空き家が放置されている事例が多い」としている。

長野県長野市では、2017年2月時点で、実質的な空き家が市内に約8000戸あり、このうちの約5000戸は所有関係がはっきりしていないという(NHKニュース、2017年5月19日)。

問題の根源「相続未登記」の広がり

土地所有者の所在や生死のゆくえがわからなくなる大きな要因に、相続未登記の問題がある。

一般に、土地や家屋の所有者が死亡すると、新たな所有者となった相続人は相続登記を行い、不動産登記簿の名義を先代から自分へ書き換える手続きを行う。ただし、相続登記は義務ではない。名義変更の手続きを行うかどうか、また、いつ行うかは、相続人の判断に委ねられているのだ。

そのため、もし相続登記が行われなければ、不動産登記簿上の名義は死亡者のまま、実際には相続人の誰かがその土地を利用している、という状態になる。その後、時間の経過とともに世代交代が進めば、法定相続人はねずみ算式に増え、登記簿情報と実態とが懸け離れていくことになる。

相続登記は義務ではなく任意であるため、こうした状態自体は違法ではない。しかし、その土地を新たに利用する話が持ち上がったり、第三者が所有者に連絡を取ろうとする場合、支障となる。

国土交通省が2014年に行った調査によると、全国4市町村から100地点ずつを選び、登記簿を調べた結果、最後に所有権に関する登記が行われた年が50年以上前のものが19.8%、30~49年前のものは26.3%に上った。この結果について国土交通省は、「所有者の所在の把握が難しい土地は、私有地の約2割が該当すると考えられ、相続登記等が行われないと、今後も増加する見込み」と分析している。

また、法務省が2017年に全国10地区を対象に行った調査によると、50年以上にわたって登記の変更がなく、相続登記が未了となっているおそれのある土地は、大都市では6.6%、中小都市・中山間地域では26.6%に上っている。

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こうした土地を利用するためには、不動産登記簿上の何十年も前の情報から相続人全員を特定し、同意を取り付ける必要がある。戸籍や住民票をたどるという膨大な作業が必要になる。

そもそも、日本では土地の所有・利用実態を把握する情報基盤が不十分である。不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳など、目的別に各種台帳は作成されている。だが、その内容や精度はさまざまで、情報を1カ所で把握できる仕組みはない。

その一方で個人の所有権は外国に比べてきわめて強い。関係省庁が複数にわたり、個人の財産権にもかかわるこの問題は、どの省庁も積極的な対応に踏み出しづらい。統計データも少なく、よほど大きな事件が起きないかぎりニュースにもならない。結果として、実態や全体構造が解き明かされないままとなり、「所有者不明化問題」は拡大している。

吉原 祥子 東京財団研究員兼政策プロデューサー

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よしはら しょうこ / Shoko Yoshihara

1971(昭和46)年神奈川県生まれ。1994年東京外国語大学タイ語科卒。タイ国立シーナカリンウィロート大学へ国費留学。米レズリー大学大学院修了(文化間関係論)。1998年より東京財団勤務。論文『「土地の『所有者不明化』――自治体アンケートが示す問題の実態」(2016年)、共著に自然資本研究会編著『自然資本入門―国、自治体、企業の挑戦』(NTT出版、2015年)ほか。

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