日本人の土地相続は根本から崩れ始めている 誰のものかわからない「所有者不明問題」の闇

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

所有者の居所や生死がすぐにわからない、いわゆる所有者不明の土地。災害復旧や耕作放棄地の解消、空き家対策など地域の支障となる例が各地で報告されている。国土交通省の2014年調査では私有地の約2割が所有者の把握が難しい土地だという。

個人の相続と、土地の「所有者不明化」。一見関係ないかに見えるが、実はその間には土地の権利と管理をどのように次世代に引き継いでいくのか、という大きな課題が横たわっている。

所有者の特定に時間がかかり、土地利用や売買の支障となる「所有者不明土地」。土地とは、個人の財産であると同時に、私たちの暮らしの土台であり、生産基盤である。民法学者の渡辺洋三は、土地の持つ4つの特質を次のように挙げる。

(1)人間の労働生産物ではない
(2)絶対に動かすことのできない固定物である
(3)相互に関連をもって全体につながっている
(4)人間の生活あるいは生産というあらゆる人間活動にとって絶対不可欠な基礎

 

さらに土地は本来、公共的な性格を持つという(『法社会学研究4 財産と法』)。

いま、この土地について、所有者の居所や生死がすぐにわからない問題が、数多く表面化している。最も身近な例が空き家だろう。

「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、「空家対策特別措置法」。2015年に全面施行)によって最初に強制撤去された長崎県新上五島町(2015年7月)、神奈川県横須賀市(同10月)の空き家は、行政のどの台帳からも所有者が特定できない「所有者不明」物件だった。空き家は、土地と家屋の所有者が別々の場合もある。だが、いずれかでも所有者がわからなければ、土地の再利用は進まない。

国土交通省によると、2017年3月時点で、空家対策特別措置法に基づく代執行(行政による空き家の強制撤去)の実績は全国で11件だが、所有者不明の場合に行う「略式代執行」は35件あった。所有者がわからないケースは、撤去費用の回収はできず、税金で賄うことになる。

空き家の所有者がわからない

日本司法書士会連合会司法書士総合研究所が2014年に行った自治体向けアンケート調査(対象/空き家条例などを設けている自治体、県庁所在地の自治体、人口30万人以上の自治体、合計218団体。157団体が回答)では、空き地・空き家問題が解決しない理由として、「所有者の特定が困難」をあげた自治体が最も多く、134自治体(85%)に上った。空き地・空き家問題では、所有者を探し出す作業が大きな障害であることがわかる。

実際、空き家率が21.7%(2013年の総務省住宅・土地統計調査)に上る愛知県南知多町では、2015年3月に町内の空き家のうち38軒について、登記簿上の所有者に管理状況の改善を求める文書を送付したところ、11軒は、所有者が登記簿上の住所に住んでおらず、通知が返送されてきた(中日新聞2015年10月12日)。

また、兵庫県加古川市では、地元のNPO法人が2015年10月から調査を行ったところ、市内の空き家約330棟のうち25%が所有者不明などの「不明物件」だった(神戸新聞2016年2月6日)。

次ページ所有者がわからなくなる要因
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事