誠一さんは大学を卒業後も就職はしなかった。居酒屋などの飲食店でしばらく働き、おカネがたまったらアジア諸国を放浪する日々。もともと東洋哲学や仏教に興味があり、旅先は仏教国の聖地であることが多かった。
人との出会いがあり、誠一さんは本格的に座禅をする決意をした。現在の寺に通うようになったのは31歳のときだ。最初は飲食店での仕事をしながら、在家として座禅に参加していた。そして、38歳で出家することを決める。「家族を持ちたいという気持ちは以前からありました。でも、出家をしたらますます出会いがなくなるでしょう。僧侶の結婚もサポートしている小さな結婚相談所に入会しました」。
海外赴任前に慌てて婚活をする人と少し似ているかもしれない。スタッフからは北陸地方にあるお寺の娘を紹介された。誠一さんは将来の住職兼お婿さん候補と見なされたのだ。
「とにかく会って来いと言われたので行きましたが、難しいと思いました。そもそも宗派が違うし……」
その寺はおそらく禅宗ですらなかったのだろう。まじめな禅僧である誠一さんが戸惑う様子を想像したら、申し訳ないけれど少し笑ってしまった。僧侶の結婚サポートをうたっているわりには手荒なことをする相談所である。
ただし、その相談所は会員数が数万人規模のお見合いネットワークにも加入していた。会員同士がプロフィールをネット上で見て、制限人数内であればお見合いを申し込むことができる。よく見ればイケメンである誠一さんを発見した涼子さんからすぐに申し込みがあり、半年経たずに婚約をした。誠一さんの婚活期間は1カ月足らずだった。
誠一さんと涼子さんの成功要因
筆者は結婚相談所の取材をすることも少なくない。少し脱線するが、誠一さんと涼子さんの成功要因を分析しておきたい。ある結婚相談所のスタッフによれば、結婚相手を見つけるのは分譲マンションを買うときに似ているという。良い物件を手に入れる人は決断力があるのだ。「この人も悪くないけれど、もっといい人がいるかもしれない」と決断を先延ばしにしていると何も決められない。「やっぱり最初に会った人がいい。もう一度会いたい」と思ったときには、その人はすでに成婚退会している。この2人の場合、誠一さんよりも涼子さんのほうに「目利き力」と決断力があったといえるだろう。
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