A5和牛の「最高級神話」が消えつつある事情 脂肪比率「約5割」の肉は本当に美味しいのか
専門家は脂肪の比率が30%ほどになれば美味しいと感じる人が多いとみているが、いまでは50%程度の肉も出回っている。サシが多い「A5」がうまいという神話が定着したことで、いまや度を過ぎた脂肪比率に上がってしまっているのかもしれない。
「A5」には美味しい肉が多いかもしれないが、必ずしも美味しいかどうかはわからないのが実態だ。過剰にサシが入った場合はうま味成分が少ないうえに、脂肪が多すぎて胃がもたれることもある。
消費者の好みも変わってきた。高齢化が進んだことや、脂肪分が多い肉より赤身肉を食べたほうが体によいという健康志向の高まりによるものだ。2009年ごろからは「赤身ブーム」が起きた。
21世紀に入って以来、好みが霜降りから赤身へと移行する傾向は強まっている。格之進の人気も、赤身肉へ消費者の嗜好が移っていることを示してもいる。
ただ、消費者の嗜好が変わりつつあるのに、生産者の変化はまだ鈍い。
それでも畜産業者が「A5」生産にこだわるワケ
農水省畜産部長を経て、現在は畜産環境整備機構副理事長の原田英男さんは「黒毛和種で去勢した雄牛でみると、最近ではA4、A5がほぼ8割という状況で、いわゆるサシが多い肉が増えている」と言う。かつては、A4、A5の上物に希少性があった時代があった。だが、その当時から今に至るまで、希少性がなくなるほどに生産者は牛肉にサシを入れ続けているといえる。
なぜだろうか。牛1頭の値段は重量と単価の掛け算で決まる。重量は1頭当たりの肉の量、つまり歩留等級(A~C)に左右され、単価は肉質の等級(5~1)で評価される。だとすれば、A5の肉が市場でいちばん高く売買されることになる。生産者がA5を目指し、食欲増進のためにマッサージをしたり、飼料を工夫したりするのは経済合理性において正しい行動である。
だが最近は状況が変わりつつある。A4、A5の上物が8割程度になってしまい、昔ほど希少性はなくなった。すると、価格が相対的に下がっていく。これもまた、経済合理性である。
原田さんは「2016年度と12年前の2004年度を比べると最高級の肉の値段は下がり、最高級とその下の肉との価格差は大幅に縮まっている」と指摘する。いまや飼料におカネをかけてA5を目指しても、それに見合った価格での取引が実現しにくくなっている。現実の市場環境とそぐわない「A5伝説」が畜産農家の首を絞めているのかもしれない。
追い打ちをかけるのが子牛価格の上昇である。肥育農家が買い取る子牛価格は2012年以降に上昇し、2012年に1頭40万円ほどだった子牛価格(黒毛和種)は2016年には85万円となった。
仕入れ値が高くなっているのに、それに見合う形では最終販売価格が上がらないのだから、畜産農家の経営は苦しくなる。畜産農家が減り続けるゆえんである。
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