「同一労働・同一賃金」の実現こそが不可欠だ 長時間労働の是正だけではハッピーじゃない

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ただ、ここでの「新たなサービスや製品」の付加価値が低ければ、余剰となった労働力は移った職場で低賃金を余儀なくされる。国民全体の実質所得は増えても、彼らの不満は高まるだろう。そしてそれは、将来への不安感や政治の不安定化につながる。今、豊かな先進国で起きている格差問題の正体はこれだろう。

バブル崩壊後、日本企業は「不況を乗り越えるためには生産性の向上が不可欠だ」と叫び、物的労働生産性を高める取り組みを熱心に追求してきた。一方で、企業は需要確保のために安売りに走った。主導したのは、飲食・宿泊や卸売業・小売業、運送業などのサービス業だ。

現場の労働者の勤勉さや優秀さも後押しし、日本企業の物的労働生産性は向上したが、それによるコスト削減は値下げ原資に回され、むしろデフレ経済を助長する結果となった。血と汗と涙の結晶(=物的労働生産性の改善)をもって、逆に付加価値労働生産性を破壊してきたのがバブル崩壊後の歴史だった。

賃金上昇のカギは付加価値労働生産性

結局、物的労働生産性の向上と付加価値労働生産性の向上(=付加価値の高い産業の登場)の両方が必要なのだ。近年の問題は、一部の新興IT業界などを除けば、付加価値の高い産業が登場しにくくなっていることだ。そのため、物的労働生産性の向上がハッピーな結果と結び付いていない。

では、長時間労働の是正は、付加価値労働生産性の向上につながるだろうか。残念ながら答えはノーだ。残業が減ることと、製品・サービスの価格が上昇することは別物だからだ。残業削減の効果は、物的労働生産性の改善に絞られることになりそうだ。

一方、付加価値労働生産性が向上すれば、労働者の賃金は必ず上がるといっていい。付加価値労働生産性向上は、企業の収益拡大を意味するから、当然といえば当然だ。しかし、付加価値労働生産性を向上させるには、高い値段でもみんなが欲しがるようなサービスや製品が新たに登場する必要があり、基本的には技術革新や経営者の創意工夫などを待つしかない。

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