奨学金延滞率公表に教職員が猛抗議したワケ 「当該サイトを閉鎖することを強く要求」

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延滞率の公表をするといっても、日本学生支援機構は大学側にペナルティを課すような考え方は持っていないという。大学などに期待する指導は、主に3点あるようだ。その中身は「奨学金の申し込み時や採用時に返還の重要性ついての理解促進を図ること、適格認定実施の際、必要額を借りるように指導するとともに、返還の重要性や返還月額がいくらになるかを指導すること、返還説明会の際、救済措置などについて説明すること」(日本学生支援機構広報課)。あくまで貸与金の返還促進に向けて、協働を望む点が強調されている。

ただ、機構の遠藤理事長は「大学も奨学金によって経営の安定という恩恵を受けているステークホルダー」だと一貫して述べている。「奨学金は国民の皆様が納めた税金に基づく公的資金が原資になっている以上、大学にも一定の説明責任があるはず」(同)という。

それに対し、私大教連中央副執行委員長の鈴木眞澄氏は「直接抗議した際は、担当者からそうした説明はいっさいなかった。あくまで機構は大学に協力をお願いしている立場で、情報を公開すれば協力関係が密になるのではないかという趣旨で公開したとのことだった」と話す。

大学にできることは何もないのか

一般論として大学はあくまで学問を探究する場であり、学生の面倒を積極的に見ることは本来の仕事ではないという考え方も成り立つ。しかし、そうした理屈は大学進学率が10%台だった頃であればともかく、50%以上にまで上昇している現代では、受け入れられにくいかもしれない。西川教授も「延滞の主な原因が日本の経済状況に基づくものであったとしても、大学にもできることはある」とする。

「安易に奨学金を借りないような指導や、働きながら学べる仕組みを作ること、卒業生に対する就職支援などだ。それに力を入れている大学は少なくない。大学人は研究者であると同時に教師であり、延滞率に表れているのは苦しんでいる教え子の姿だ。今回のデータ公表には問題点もあるが、教え子に対する長期の支援に対して、インセンティブが与えられたとも解釈することもできるのではないか」(西川教授)

日本学生支援機構が公開したデータを基に作成したランキングを見るかぎり、全体で約700校の平均は1.3%だ。そのうち上位100校程度に延滞率3%以上の大学が固まっており、高い延滞率となっている大学は、偏りがある。私大教連書記次長の三宅祥隆氏は、「このデータは、あくまで3カ月以上延滞している人の数を基に作られているが、なぜ延滞したのかなど、その背景については何も書いていない。大学の指導と延滞率の因果関係を証明できるわけでもない。単なる数字である以上、まったく意味が見いだせない」と話す。

延滞率と大学の指導に直接の相関関係がないから、「数値自体を公表することに意味がない」とするのは、筆者には少し飛躍があるように感じられる。これは個別の大学の延滞率がうんぬんという問題以前に、全体の傾向を考えるうえで示唆的なデータではないだろうか。「大学の不利益を考えると、少なくとも匿名にするべき」(三宅氏)という考え方もありそうだが、それではあまりに漠然としていて意味が半減してしまいそうだ。今回のデータは、大学進学を選択肢に入れる生徒やその保護者に対して、進路を考えるうえで有用な情報になることは変わらないのではないだろうか。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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