GDPギャップと物価のつながりはどの程度か GDPギャップのわずかな違いには意味がない

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消費者物価指数は585品目という多くの商品の価格変化の合成である。個々の商品の価格はそれぞれの事情で決まっており、一様に上下するわけではない。消費者物価指数が上昇していた時期に、すべての商品の価格が上昇していたわけではない。消費税率の影響を除いて消費者物価指数の前年同期比上昇率が1%台半ばに達していた2014年初め頃でも、3割程度の商品では前年に比べて価格が下落していた。

個別物価の動向が大きな影響を及ぼす場合も

たとえば消費者の嗜好の変化や新製品の登場などの要因で需要がテレビから乗用車に大きくシフトするようなケースでは、乗用車で需要超過が起こっても、テレビでは供給力の大幅な余剰があるということが起こりうる。日本経済全体ではGDPギャップがマイナスで需要不足のはずなのに、乗用車の価格上昇が大きかったり、ほかの製品へ波及が起こったりすれば、企業物価や消費者物価が上昇することも起こる。高度成長期の日本で見られたように、最も供給余力の小さいところが、いわゆるボトルネックになってしまい、経済成長を妨げたり、異常な価格上昇が起こったりすることもある。

こうした特殊な要因も加わるので、消費者物価指数の上昇・下落は、GDPギャップの改善や悪化という経済全体の需給関係だけではなくさまざまな原因で起こる。GDPの物価ともいえるGDPデフレーターの動きが原油などの輸入品の価格に大きく左右され、消費者物価の上昇・下落とは逆方向に動くことがあることは前回のコラム「賃金が物価よりも上昇しないとデフレは続く」で述べたとおりだ。

GDPギャップは経済が著しい不均衡にないかをチェックするための重要な経済指標だが、誤差も大きく、プラスかマイナスかといったわずかな変化に一喜一憂すべきではない。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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