実際に、需給ギャップ(GDPギャップ)の拡大にもかかわらず物価上昇率が高まりにくいというのは日本だけでなく米国など他の先進諸国にも共通の症状になりつつある。財政政策や金融政策による需要の調節というマクロの経済政策の問題ではない、先進諸国に共通する別の要因が働いていると考えるべきなのではないだろうか。
日本経済をデフレから脱却させるためにGDPギャップがマイナスにならないようにすることが必要なように見えるかもしれないが、推計の精度を考えれば、ゼロ近辺であればわずかなプラスかマイナスかといった違いにはほとんど意味がないと考えるべきだ。
内閣府は、海外の中央銀行やIMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)などの国際機関で広く行われているように、潜在GDPを推計して実際のGDPとの差からギャップを求めている。潜在GDPを「経済の過去のトレンドから見て平均的な水準で生産要素を投入したときに実現可能なGDP」と定義しているが、「平均的な水準」を具体的にどう設定するかにはさまざまな方法が考えられ、それによってGDPギャップの規模は違ってきてしまう。
日本のGDPギャップはおおむねゼロ近辺
わが国では、日銀も労働投入ギャップと資本投入ギャップから直接、需給ギャップ(GDPギャップ)を求めるという異なる手法で推計した値を公表しているが、内閣府の発表しているものとは差がある。どのような方法であれGDPギャップを推計するにはさまざまな仮定をせざるをえず、ある程度の誤差は避けられない。
最近の日本経済ではGDPギャップはおおむねゼロ近辺だ。大幅なマイナスではないので大規模な需要不足によって物価が下落することを心配するような状況にはないし、大幅なプラスでもないので著しい需要超過で急激な物価上昇が起こるというような状況にもなく、経済の需給には大きな問題はないと考えるべきだろう。
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