自分の「年収の増加率」を知っていますか? 「異色すぎるNHK経済番組」が問いかけたこと
安田:セドラチェクさんとの対談で特に強く記憶に残ったのは、GDPの話です。「安田さん、あなたは自分の所得が去年と比べて何%伸びたか正確に把握してますか」と聞かれて、「あ、言われてみると全然知らないな」と。
おそらく皆さんも、自分の所得が何%伸びたかなんて、ふだんはほとんど意識していないでしょう。その一方で、GDPの成長率についてはメディアなどを通じて細かく知っていて、コンマ数パーセントの違いにすら敏感に反応してしまう。これって冷静に考えるとちょっとおかしなことなんです。
「GDPが増えてうれしい」というのは、景気がよくなって自分のボーナスが増えたり、不況を理由に解雇されにくくなったりするというように、間接的になにかいいことが起きて、「したがって、私自身の生活にもいいことがあるに違いない」ということでしょう。
だけど、そういった間接的なものを取り払って、本来はいちばん関心があるはずの、自分自身のことを現実にどのぐらい知っているのか? 実は知らないんですよね。この事実自体が、私たちが数字にかなり踊らされていることの証拠ではないかと指摘を受けて、確かにそうだなと腑に落ちました。
フィルタリングを解くインタビュー
丸山:映像表現でも、従来型の番組とは少々異なる角度からのアプローチを心掛けましたね。大西さんに突然「アダムとイブが禁断のリンゴに手を出したとき、人類の不幸が始まったのかなあ」なんてつぶやきのメールを送ったりして。そういうメタファーをいくつも投げられて、彼は迷惑したと思いますけど(笑)。
――番組の映像世界は独特でしたね。禁断の果実の絵を使ったり、室内ではなく町を歩きながら、あるいは車に乗りながらインタビューを行ったり。キャストの皆さんがリラックスして対談していたのが印象的でした。番組の世界観を踏襲できるよう、書籍のレイアウトも工夫を凝らしました。
大西:人って、「インタビューします」とか「対談お願いします」と目の前にカメラを向けられても、過剰にTPOを考えすぎて言葉を過剰にフィルタリングしてしまうものだと思います。「どこまで言っていいのかな」とか、「どういうスタイルで話そうかな」とか。でも、たとえば運転しながらや歩きながらなど、何かをしながらという状況では、その意識が少し消えるんですよね。
番組のラストでは、対談を終えた安田さんが、タクシーの中で「まだこれからグランドセオリーを見つけられるんじゃないか」と語る印象的シーンがあります。
あのときは、ぜひ番組のキメの言葉、芯のある言葉を聞きたいという思いがあって、あえて僕は素知らぬふりをして車の前に座って後ろの安田さんの顔を見ず、カメラマンだけがなんとなく撮っているという状況にして、しゃべっていただきましたね。
――激動のなかで、今後もぜひ続編があればいいなと思っていますが、次の着想は?
丸山:アダム・スミスやケインズは扱いましたが、カール・マルクスもヨーゼフ・シュンペーターもまだ触れていませんからね。そういった歴史的な考察、エッセンスと、現代を掛け合わせたらどうなるかというのは、考えてみたいと思います。問いは、終わることなく続いていくのではないでしょうか。
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