自分の「年収の増加率」を知っていますか? 「異色すぎるNHK経済番組」が問いかけたこと
丸山:ちなみにその後、「爆笑問題のニッポンの教養」という番組で、太田光さんが哲学の先生と丁々発止の問答をするというような企画も立ち上げたわけですが、すべてを異文化コミュニケーションととらえる、異を異として生かすドキュメントとしての番組のありようの大事さは、いつも思い続けていることです。
答えを提示するというより、わからないものはわからないまま受け止め、あとは視聴者の方に考えるきっかけとしていただく、そのなかで制作者自身も発見していく。今回も、近代経済学の王道を行く安田さんが、あえてセドラチェクたちと話すというところにスリリングな面白さが生まれるんじゃないかと思います。
大西:安田さんは、偏りすぎずオープンに立っていられる存在で、ある種の「入り口」になっていく存在であり、実は番組における「主人公」でもあります。近代経済学のフロントランナーであるがゆえに、実はぶつかっているかもしれない課題を、番組のなかで知ることができたらという考えありました。
安田:僕もいろんな分野で活躍している世界のフロントランナーと話してみたいという気持ちがありました。NHKの番組だからこそ会えた方もいます。ちょっぴり裏話をすると、なかなか取材に応じてくれなくて、僕のほうからかなり強くアプローチした方もいましたけど(笑)。
大西:安田さんには、どういった人にインタビューに行くかという構想段階からお知恵を拝借しましたね。専門的な議論だけでは多くの人に見てもらえるコンテンツにはならないと思っていましたから、どう間口を広げながら、シンプルで伝わる言葉、だけど深いものに引き出していくか……。安田さんにはそこを本当に頑張っていただきました。ご自身はもっと専門の話をしたかったかもしれませんけど。
安田:収録前後に専門的な話もさせていただきましたよ。
スティグリッツさんはスケジュールがタイトな方で、当初1時間の予定だったんですが、盛り上がって2時間ぐらい話してくださったんです。ただその結果、僕らのあとの人たちが「今日はもう無理だ」と言われてしまって……秘書さんから「次に予定が空くのは1カ月後」と言われたときの、彼らの絶望的な表情は今でも覚えています。そういった犠牲の上にも成り立っている作品なんです(笑)。
あえて、経済学の外側から考える
――経済学の巨人スティグリッツ、異色の経済学者セドラチェク、ベンチャーキャピタルのスタンフォードなど、面白い人選でした。
丸山:まず、近代経済学の王道の人には絶対話を聞かないとダメ。それから起業家の最前線の話も必要だろう。でも、それだけだと小さくまとまるなと思っていたとき、たまたま書店でセドラチェクの『善と悪の経済学』を見つけたんです。
読んでみると、いろんな神話の要素がちりばめられていて、ぼくが思い描いていたような、経済現象を外側から見るような、近代経済学という学問を相対化するような感覚があった。経済学を数字の物語として、その可能性と限界を語っているところもすごく面白かったんです。こういう人がスパイスとして参加してくれたらなあ、と。
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