「失敗国家」北朝鮮には、対話と交流が必要だ 「粛清の王朝・北朝鮮」著者の羅鍾一氏に聞く
――では、現体制を維持したまま北朝鮮と対話を続けて軟着陸を目指すのがいい、ということですね。
羅:北朝鮮で権力の空白が生じた場合、どのような行動をすべきか考えると、それしか方法がありません。北朝鮮という国を、現状も危機にある状態からどう誘導すべきかを考えると、対話・交流を深めていくしかない。北朝鮮の失敗や軍事危機が、われわれの失敗にならないようにしなければなりません。
――今年4月には、北朝鮮のミサイル攻撃の可能性で、日本の危機管理も大きな問題となりました。
羅:仮に北朝鮮が軍事的行動に出る場合、主目的は日本になる可能性は知っておいたほうがいいでしょう。北朝鮮は、韓国よりは、日本と米国を敵として見ています。韓国は同族であり、米国は朝鮮戦争(1950~53年)の主敵でした。その主敵と安全保障上のパートナーであり、基地も存在する日本はやはり敵だ、と考えています。
北朝鮮の権力層はきちんと物事を考えることができる人たちです。しかも、このような権力層は、日本や米国の政治家と比べるとはるかによい暮らしをしています。ですから自国が潰れることを何よりも恐れます。そんな権力層には、やはりじっくりと腰を据えて、国際的失敗を避ける方向へと誘導しなければならないでしょう。
ミサイルの主目的は日本も含まれる
――本書の中で、故・張成沢の発言を紹介されています。1980年代中ごろ、張成沢の大学時代の恩師だった故・黄長燁(1923~2010年、元朝鮮労働党国際担当書記。1995年に韓国へ亡命)が張成沢に、「このままいけば、われわれの経済は破綻しかない。どうすればよいのだ」と問いただすと、「われわれの経済はすでに破綻しているのに、これ以上どう悪くなるのですか」と答えたとあります。
羅:張成沢のこの発言は、当時の北朝鮮経済の事情について、最も正確な指摘だったのかもしれません。ただ、それより重要なことが、彼の発言から見えます。それは、張成沢自身が自分の地位と自らが属する体制をどう認識しているか、ということです。彼は2013年に処刑されるまで、権力体制の一部でした。そして体制内で、重要な位置を得ていました。さらに、故・金正日総書記の妹を妻にしたために、金日成一族の内部にも位置していました。
ところが、この発言からは、張成沢はその体制と集団の外にある、境界線のどこかでさまよっていたように思えます。これは、韓国や日本にある「婿養子」がどのような存在かを考えると、彼の居場所がわかるのではないでしょうか。張成沢はいわば、妻のほうの家に行った、婿養子的な人物だったということです。
婿養子であるがゆえに、夫、世帯主として、完全なる主人にはなれなかった。しかも、なまじ有能だったので、一族や体制内から警戒され続けた。有能でなければ、バカにされて無視されるだけですが、彼は確かに有能でした。そのような張成沢を取り巻く環境から、彼は権力層とそれ以外の境界の間で、宙ぶらりんの状態であり続けました。それがゆえに、あれだけの権力を誇っていたものの、あっけなく簡単に処刑されたとも言えるでしょう。
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