あの「経産省若手レポート」は炎上覚悟だった 人生100年時代に「全員賛成」の政策はない

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石井:やはり「生き方は変わる」という図式があるのだと思います。『ライフ・シフト』も若手プロジェクトも個人の生き方への示唆が多いですが、僕は、企業の行動も変わると思います。次世代の企業に投資するベンチャーキャピタルのトップクラスの方々は「今後世の中はこう変わっていくから、こういう分野に投資していくよ」という具合に、目線が高い。学生の皆さんは、今起こっている変化のなかで、個人でどう行動したい、あるいは、所属する企業をどう動かしたいと考えますか。

学生A:自分は社内で起業支援制度をつくりたいですね。「40歳定年制」という言葉がありますが、40歳で辞めろという制度ではなく、自然な形で副業やワークアウトを実施できるような文化がいい。うまくいけばスピンオフすればいいし。極力、二毛作が早いほうが、三毛作にもスムーズに行けるだろうと思いますから。

「役人」だからといって一枚岩ではない

学生B:二毛作三毛作を「せざるをえない状況」とも表現できます。まず政策的な規制緩和が必要でしょう。定年のお話にもありましたが、やはり「〇歳以上」と一律でばっさりカットするような政策が多く、問題だと思う。真に多様化を思うなら、もっといろんな場合分けを考えて政策をつくるべきだと思います。制度としてどう変えるのかに興味があるし、提言をしていきたいですね。

学生C:典型的な日本の大企業に勤めている私には、この資料は本当に衝撃でした。一括採用がベースにあることが、多様性の阻害要因だと思います。私の会社では、年功序列のヒエラルキーが完璧に出来上がっていて、人材の流動性は低い。副業や兼業という話はまったく出ません。社内ベンチャーといわれても、5歩くらい先を行く話で、この波には乗れないなというのが正直なところです。

石井:経済産業省の若手がこんなことを言っているって、会社の中の柔軟そうな方に資料を見せてみるなんて、いかがですか。

学生C:そう、今回この資料を職場の上司に見せたり、周りの人のデスクに置いてみたりしたんです。でも、「自分たちは目の前にニンジンぶら下げられて脇目も振らずに40年働いてきたのに、今になってこれかあ」って。ただ、お子さんのいる方には「自分の子どもは自分で支えて、さらに親も支えなきゃと思っていたのに、こんないい考えがあるんだね」という反応もありました。若手は、危機感をあおられて「転職かな」なんて思ったようですが。

学生D:僕は海外の子どもの貧困に関心があって、個人的に寄付をしています。「海外の」と言ったのは、税制の問題で、国内だと寄付控除が認められない団体が多いんです。拝見した資料には、「資産課税強化」という言葉があります。トマ・ピケティの言う累進課税を強化して格差社会を圧縮するという考え方だと思いますが、同時に、「官でできないことを民で担う」ともおっしゃいましたよね。課税は公の権力行使の最たるものですし、お役人はいったい何を考えているのかと思ってしまうんですが……。

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