ダモイ遥かに 辺見じゅん著
シベリア抑留は日ロ間に今なお重く横たわる。だが人間の弱さと強さを見つめるのに抑留小説ほど好個の題材はそうはないだろう。
主人公山本は満鉄調査部出身の元二等兵。「帰国(ダモイ)」を合言葉に絶望しがちな仲間を励まし続ける強靭な意志の持ち主だが、彼が主宰して密やかに続く句会の描写が、恐怖、飢え、重労働の過酷な収容所(ラーゲリ)生活を超越する清涼剤となっている。
圧巻は山本の遺書を仲間たちが日本へ持ち帰るいきさつ。「文字」はいっさい持ち出すことが禁止されている。どうする……。映画「華氏451」を思い出すが、ここで主人公は山本から一気に広がりを見せる。
本書は小学校高学年にも読めるようルビがふられている。家庭で親子が本を読んで語り合う「家読(うちどく)」運動が注目されているが、その対象にも好適で小中高校生の情操を育てるに役立つだろう。大人向けにも完成度は高く友情、尊厳、家族、国家、多々考えさせられる。(純)
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