「早稲田塾」が大量閉鎖を推し進める真の狙い あの「東進」の運営会社が見せた将来への布石

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縮小

代ゼミはただ収益率の悪い校舎を潰したのではない。2010年には難関大学現役合格塾として「Y-SAPIX」のブランドを立ち上げており、すでに新しいビジネスモデルの足場を用意していたのだ。少子化で、従来の予備校のビジネスモデルが立ちゆかなくなるであろうことは火を見るより明らかだった。旧来の「代ゼミ」から「Y-SAPIX」へのビジネスモデルの移行を「予定どおり」推し進めただけである。実際あのとき、「代ゼミ」の校舎は縮小しても「Y-SAPIX」は縮小していない。

「閉鎖」は余力があるうちの前向きな経営判断

さて、今回の早稲田塾の校舎の大量閉鎖。せっかく2020年度の大学入試改革をにらんで手に入れた「早稲田塾」の看板を、なぜ縮小するのか。これも「予定どおり」なのではないかと私は思う。早稲田塾は一棟建ての立派な校舎を展開していた。当然固定費率が高く、収益率は低い。これはナガセの流儀ではない。早晩収益構造の改善はしなければならなかったのだ。

早稲田塾を傘下に収めたとき、ナガセがほしかったのは早稲田塾の校舎ではない。早稲田塾のAO入試・推薦入試対策の教材やノウハウだ。これを自分たちの十八番である映像授業やオンライン授業に移行していくつもりであったはずだ。それは、中学受験塾の四谷大塚でもオンライン授業やICTを活用した教材開発に力を入れていることからも想像できる。

そうはいっても校舎には生徒がいる。むげに潰すことはできない。固定費は減らしたいものの、そのタイミングをうかがっていたはずである。今回このタイミングで閉鎖を決断したのには、おそらく前期決算における減収が大きな要因になっている。2017年3月期決算でナガセグループ全体の売り上げが前年度を割り込んでいたのである。そのうち早稲田塾単体で約16億円の赤字を計上していた。

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不況、少子化をものともせず、右肩上がりの成長を続けていたナガセとしては忸怩(じくじ)たる思いがあり、このタイミングで「損切り」を決断したと考えられる。つまり、これも、体力があるうちの「前向きな判断」の1つである。「早稲田塾」の教材やノウハウは、2020年の大学入試改革以降、ナガセの新たなコンテンツになり、東進衛星予備校を通じて全国の高校生に届けられることになるはずだ。

代ゼミが、旧来の「代ゼミ」から「Y-SAPIX」へと名実ともにビジネスモデルの移行を進めているのと同様に、ナガセも、「早稲田塾」のビジネスモデルをドラスティックに変えようとしているのである。代ゼミのときも、今回も、「閉鎖」という消極的な側面にだけ焦点を当てて「経営危機」のように報道されることが多いが、いずれも時代の潮流をとらえた順当な経営判断であると私は思う。

危ないのはむしろ、この期におよんで「動かない(動けない)」予備校や塾ではないか。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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