同教授は米国経済の当時の低成長が永遠に続くと考えていた。大恐慌が始まって10年近くが経ち、第2次世界大戦も始まっていなかった頃のことだ。戦争により、低成長はようやく終わりを告げた。
ハンセン教授の理論は、米国の出生率の考察に基づいていた。1920年代に劇的に落ち込んだ出生率は、1930年代に異例ともいえる低水準にあった。同教授は出生率の低下が、低成長を永続させる原因になると推察した。なぜなら、出生率が下がれば、子どもに使う支出は減るし、将来に向けて投資しようという意欲も減退するからだ。
世界銀行によれば、世界の平均出生率も2008年の金融危機以降、低下している。だが、少子化と金融危機には、特に何らかの関係があるわけではない。出生率は、過去100年間の大半にわたって着実に低下を続けてきたからだ。
金融危機の記憶に、長期停滞の理由を求める説明もある。消費者心理を示す指標はまずまず良好だし、金融市場の価格変動も比較的落ち着いている。にもかかわらず、金融危機の記憶が頭の中に残っているせいで、極めて例外的な巨大ショックが今にも起きるのではないかという恐怖心につながっているとする説だ。
現在の長期停滞を理解するポイントとは
私自身は、急速な技術進歩によって多くの職が失われ、格差が一気に拡大するのではないかという不安感に、現在の長期停滞を理解するポイントがあると考えている。長期的な雇用に漠然とした不安を抱えているので、人々はおカネを使うことに対して慎重になっている可能性がある。この見立てが正しければ、消費を促すには、低金利という形での景気刺激策が一段と必要かもしれない。
経済について明るいニュースが続けば、人々は楽観的な気持ちになることもあるだろう。だが、それだけでは、将来不安は消えない。例外的に大規模な刺激策がなければ、消費は抑制されることになる。人々が悲観的な未来像にとらわれているときには、それに対応した政策を打たねばならないのだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら