バフェットとベゾス、2人の天才と新聞経営 読者志向を失った名門紙の凋落とこれから
ピュリツァー賞を受賞しても、購読者は右肩下がり
ワシントン・ポスト発行の月刊紙「ワシントン・マンスリー」の編集者だったティモシー・ノアは1984年、「独占から得る利益 果たされぬ約束」というコラムで、絶頂期に差しかかっていたポストの体質を批判している。
ポストは73年、ニクソン大統領の盗聴スキャンダル、ウォーターゲート事件の報道でピュリッツアー賞を受賞した。81年にはライバルだったワシントン・スターが廃刊し、ポストは地域独占を謳歌。株価は過去2年で117.9%上昇、第1—3四半期の利益が81年同期に比べて170.7%増となり、ニューヨークでハリウッドスターを集めて、広告主向けに派手なパーティーを開いた。ポスト幹部や記者も当時としては破格のサラリーを受け取った。
これに対し、ノアは、激しく警鐘を鳴らした。
「ポストが自らに課したモラルの基準は、(資本主義の一員として)利益を追求するだけではない。(地域に対する)責任と品位を守る必要がある。その面で、ポストは責任を果たせないでいる」
「読者とコミュニティのニーズに対する責任」を忘れている、と訴えたノア。ポストは、93年に平均発行部数約83万部の絶頂期を迎えたものの、その後は減少が続き、2012年は約48万部超とピークの3分の2だ(ニューヨーク・タイムズ調べ)。
ロイター通信によると、ポストのベテラン記者は「ものすごい勢いで人員を増強し、読者ではなく、賞の獲得を追い求めていた」とも証言している。現会長兼CEOのドナルド・グラハム(68)が発行人だった2000年までの10年間で、「われわれは他のどの新聞よりも多くのピュリツァー賞を受賞したが、購読者12万人を失った」と話した。
ポストの買収価格は高すぎる
それでも、ポストがベゾスに買収されたのは、「幸運」というほかない。ことし上半期の新聞事業の営業赤字は4930万ドルと、前年同期の営業赤字3320万ドルから拡大。早期退職パッケージのコストがかさみ、教育事業やケーブルテレビ事業を束ねる親会社ワシントン・ポスト・カンパニーの業績は減益が続く。
「新聞事業というのは、一般的に年商の3倍から4倍で売りに出される。ポストの伝統を考慮し、気前よく見積もってもポストの価値は5000万〜7000万ドルだろう。それが2億5000万ドルになったのは、首都ワシントンという高所得者が多いマーケット、良質な読者のお陰だ。2億5000万ドルのプレミアムは、ポストが持っていた『特権』の分といえる」と、メディア・アナリストのケン・ドクターは指摘する。
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