《対決!世界の大空港5》英・ヒースロー 発着枠までも自由売買!オープンスカイで独り勝ち。反撃するフランクフルト
発着枠欲しさに大枚はたく航空会社
「ヒースロー空港の発着枠を、のどから手が出るほど欲しがる航空会社はいくつもあった。多くの売買は公表されていないが、一つの例としては、デルタ航空がアイルランドのエアリンガスから7000万ドルもの高価格で購入したといわれている」(マーフィー氏)。
また米コンチネンタル航空は、英GBエアウェイズ、エールフランス航空、伊アリタリア航空などが持っていたヒースロー空港の発着枠4組を、2億900万ドルで購入したといわれている。売りに出された発着枠の多くが、欧州航空会社によって、低採算の国内線、もしくは短距離の欧州域内線として運航されていたものだ。
アライアンス(航空連合)内で発着枠を交換するケースもある。金額は明らかにされていないが、エールフランス航空やKLMオランダ航空は自身で運航していたヒースロー-アムステルダム便や、ヒースロー-パリ便の本数を減らし、同じ「スカイチーム」に所属するデルタ航空、ノースウエスト航空、コンチネンタル航空の大西洋線運航のために譲ったとされている。エールフランス航空は、こうして開設されたデルタ航空の大西洋線でコードシェア(共同運航)便の運航も開始した。
なお日本では、航空会社間での発着枠売買や交換はもちろん、国内便を国際線に振り替えることも認められていない。
ヒースロー空港の発着枠売買は今後さらに進むと見られている。これは一見、空港にとっても高収益の大型機発着が増え、歓迎すべきことのように思われる。だが一方で、ヒースロー空港から、国内線や欧州域内線が低収益路線としてどんどん消え去ってしまう危険性もはらんでいる。
前出のプライス氏は、「スロットトレーディングは確かに限られたキャパシティをより効率的に使う手段ではある。が、発着路線の偏りによって乗り継ぎのネットワークや運航頻度が減り、乗客の利便性低下をもたらす可能性もある」と危惧する。
スロットトレーディングによって発着枠が目いっぱい活用されたとしても、空港全体のキャパシティが拡張されないかぎり、ヒースロー空港の黄金時代は続かないというのが専門家の一致した意見だ。
今年3月の「ターミナル5」の開業によって、ヒースロー空港はハンドリングできる旅客数が年間3000万人分増えた。だが、「ターミナル容量が増えても滑走路が増えなければ、空港の混雑は解消できない」(マーフィー氏)。長らく議論されてきた第3滑走路の増設は、ロンドン市街に近いという立地の問題から反対も強くいまだ結論には至っていない。
「キャパシティの課題が解決されないかぎり、ヒースロー空港はやがてトップの地位から転落し欧州4位の座に落ち着くだろう」(英フロスト&サリバンの航空コンサルタント、ディオゲネス・パピオミティス氏)という悲観的な見方もある。