《対決!世界の大空港5》英・ヒースロー 発着枠までも自由売買!オープンスカイで独り勝ち。反撃するフランクフルト

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 年間旅客数5640万人--欧州と北米を結ぶ大西洋線は、世界の航空需要の実に6割を占める。今年3月、EU27カ国と米国の航空会社がこの高需要ルートに自由に新路線を開設できる「オープンスカイ協定」が発効した。

これによって、この4月から始まった2008年の夏ダイヤでは、大西洋線の運航が前年に比べて約8%増えたが、その多くを占めるのが英ロンドン・ヒースロー空港発着の路線だ。

ヒースロー空港と北米を結ぶ路線は、ほかの欧州都市発着の大西洋線に比べても、ビジネス、レジャーとも、とりわけ大きな需要を擁する“ドル箱路線”。にもかかわらず、これまで米英間に航空自由化を定めた協定は締結されておらず、ヒースロー空港発着の大西洋線は、アメリカン航空、ユナイテッド航空、ブリティッシュ・エアウェイズ、ヴァージン・アトランティック航空の米英4社による独占状態にあった。

ここに、仏エールフランス航空や米デルタ航空など、ほかの航空会社も参入できるようになったのだ。

英国のコンサルティング会社、モット・マクドナルドで航空政策部門のディレクターを務めるロウリー・プライス氏は、こう強調する。「オープンスカイ協定は、いわば“オープン・ヒースロー協定”だ」。

ヒースロー空港発着の大西洋線を運航する航空会社が増えれば、顧客獲得をめぐり運賃やサービス競争が活発化する可能性は大いにある。欧州委員会では、今後5年間で大西洋線の旅客数が2500万人増加し、EU、米国双方で120億ユーロの経済効果が生まれると予測している。

とはいえヒースロー空港は、年間約48万回の発着陸をたった2本の滑走路でこなしている大混雑空港。今でも99・8%の発着枠が埋まり、満杯といわれている。「その混雑ゆえに、欧州の空港の中で最もパフォーマンスが悪く、08年4~6月においても、44%もの発着便が15分以上遅延した」(英パフォーマンス・コンサルタンツの航空グループ長、パトリック・マーフィー氏)。

成田空港並みの混雑に悩むこの空港のいったいどこに、新規参入を受け入れ、新路線を増設する余地があるのだろうか。

その答えは「スロットトレーディング」、いわゆる航空会社間での発着枠売買にある。

ヒースロー空港に限らず、欧州の空港の発着枠は通常、航空会社や空港運営会社、当局からも独立した第三者機関、スロットコーディネーターによって、公平に割り当てられている。

発着枠の売買は、実はいかなる航空関係法規にも明記されていない「グレーゾーン」の行為だ。英国では1999年の高等法院判決によって認められたが、欧州委員会が「発着枠の有効利用のためにアクセクタブル(受諾できる)方法である」と初めて肯定的な表明をしたのは今からつい3カ月前のこと。

だが昨年4月にオープンスカイ協定が締結されて以後、スロットトレーディングはこれまで以上に盛んに行われるようになっている。

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