炎上恐怖症?社会問題を扱う広告は死ぬのか 社会問題に「口をつぐむ」広告主の胸の内

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クラインバーグ氏によれば、「政治的または社会的立場を表明することは、新しい世界に徐々に足を踏み入れるのではなく、いきなり頭から飛び込むようなものであり、命を危険にさらす可能性がある」と指摘する。したがって、「いまは多くのブランドが、そのようなリスクを取りたがらない」と同氏は語った。

しかも、こうしたキャンペーンが必ずうまくいくとは限らない。複数の調査によれば、消費者は何らかの進歩的な立場を採るブランドを好むという。だが、そうした姿勢がDNAに織り込まれているブランドと、単に流行に乗ろうとしているブランドの差は、これまでにないほど明らかに広がっている。たとえば、こうしたトレンドが見られはじめた頃にトラクションが行った調査によれば、消費者は信条や問題を製品のプロモーションに利用する企業に対してますます懐疑的になっている。また、大手エージェンシーのハバス・メディアが行った別の調査によると、人々は「意識の高いブランド」を評価しているものの、こうしたブランドが制作するコンテンツの60%は、品質が低いか、的外れなものか、キャンペーンの目的が達成できていないという。

だからといって、絶対にうまくいかないわけではない。基本的な信念として、ある種の信条を設立当初から表明しているブランドもある。たとえばパタゴニアは、環境に責任をもてるやり方で品質の高い製品を製造している。またAirbnbは、何年も前から「belong anywhere(どこでも居場所がある)」というキャッチフレーズを掲げ、人々の調和を訴えかけている。同じように、乳製品メーカーのチョバニは、難民のために行動し、難民の側に立った意見を表明している。そしてスナック菓子メーカーのカインドは、何年も前に財団を立ち上げ、人々を結びつける取り組みを行っている。

カインドの創設者兼CEO、ダニエル・ルベツキー氏は、「思いやり(kindness)にフォーカスすることは私たちの信念となっている。なぜなら、これは私が両親から受け継いだ個人的な信念だからだ。他人を思いやることが信頼を築き、最終的には人々を結ぶ架け橋となる」と述べる。「揺るぎないブランド価値を築くには、社会的な取り組みを、変わることのない信念として行う必要がある」。

信条は戦略に利用できない

重要なのは、理念や目標を「ブランドのDNA」に織り込むことだ。物事を正しく行おうとするなら、その「プロセス」を正しく理解する必要があると、コンテンツマーケティング専門のエージェンシー、スクールのCEO、マックス・レンダーマン氏はいう。「まず、ブランドの信念には適切な意図がなければならない。次に、その信念に向けて何らかの行動を取っていることを示し、こうした信念について人々を説得し、最終的には実際にどういう成果が上がっているかを示すことが必要だ」。

「ほとんどのブランドは、トレンドに対してただ反射的に反応し、そのトレンドを乗っ取ろうとする」とルベツキー氏は話す。「だが、信条や目標を戦術として利用することはできない。そんなことをすれば失敗するだけだ」。

Tanya Dua(原文 / 訳:ガリレオ)

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