賃金が物価よりも上昇しないとデフレは続く GDPデフレーターを分析するとよくわかる

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輸入物価の上昇で引き起こされる消費者物価などの上昇が、物価の下落が続くというデフレ心理を変えるという効果についてはどうだろうか。確かに消費者物価の上昇が続くと、消費者はそのまま物価の上昇が続きそうだと考えるようになっていく。デフレ心理は改善されるかもしれない。しかし、問題はそれが消費の拡大につながるかどうかだ。

消費者物価の上昇以上に賃金が増えていれば、消費者は今の消費水準を維持するのに十二分の所得があり、物価が上がる前に商品を購入しようというメカニズムは働きやすい。しかし、賃金の上昇が物価上昇に追いつかなければ、貯蓄を削るしか消費水準を維持する方法はなくなる。そう考えて、物価の上昇が将来不安につながってしまえば、むしろ逆効果となるおそれもある。

日本は小麦や大豆、トウモロコシなどの食料品、食品の原材料を輸入に頼っているので、円安による輸入物価の上昇は食品価格の上昇に直結する。耐久消費財は高額なので消費者物価指数ではウエートが高いが、購入の頻度は低いので価格が低下しているということを実感する機会は少なく、ほとんどの消費者は価格下落の実感がない。

物価よりも賃金が上がらなければ購入意欲は低下

一方、食料品のように毎日購入するものは、1つひとつの品物の価格は低くても、価格が上昇したという印象を多くの消費者に与える。輸入物価の上昇で起こる物価上昇は、賃金が上がらない中で食品価格や光熱費の上昇など生活必需品の消費負担の増大を引き起こし、それ以外のものを購入する余裕も意欲も低下させてしまうおそれが大きい。

失業率は2%台に低下して人手不足が深刻化しているのに、賃金は上がってこない。金融緩和策を主張する人々は、消費者が将来も物価は上がらないというデフレマインドを抱いているために消費を増やさないと主張している。しかし、デフレマインドはデフレが続く原因ではないだろう。日本経済がデフレから脱却できない理由は、円安で輸入物価が押し上げられても、それを上回る賃金上昇がないところにある。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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