賃金が物価よりも上昇しないとデフレは続く GDPデフレーターを分析するとよくわかる

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実質GDPが変わらないこの設定では、GDPデフレーターが上昇するためには、名目GDPが増えなくてはならないので、輸入価格の上昇による増加幅50円よりも民間最終消費支出の増加幅が大きくなければならない。つまり輸入金額の増加分よりも大きくガソリン販売額を増加させる必要があるので、輸入価格の上昇を理由とした値上げだけでは足りないのだ。

ここでは税金など政府の存在は無視しているので、名目GDPは賃金と企業の利益に分配される。原油価格の増加幅50円よりもガソリン価格の増加幅が小さいと、名目GDPが縮小してしまうので、賃金を削るか企業収益が悪化するか(またはその両方)しなくてはならない。逆に原油価格の増加以上にガソリン価格を増加させると名目GDPが増えて、増加分は賃金や企業収益の増加になる。

物価が国内要因で上昇しないと名目GDPは減少

デフレ脱却のためには賃金が上昇しなくてはならないということには、おおむね合意が得られていると考えられるが、そのためには輸入品の価格上昇を理由とした値上げではなく、賃金の上昇を理由とした値上げが起こる必要がある。そうすればGDPデフレーターが上昇して名目GDPが増え、それが家計所得に分配されて物価上昇の中で消費支出を増やすことが可能だという状況となるからだ。

これまでも大幅な円安や原油価格の上昇が原因で、消費者物価上昇率が高まるということは何度か起きた。それが長続きせず、その後再び消費者物価が下落してしまった直接の理由は、原油価格が下がったからだ。しかし、消費者物価の上昇率がもう少し高ければマイナスにまで落ち込まなかったはずで、国内における物価上昇の勢いが弱いという状況が改善していないことは明らかだ。

輸入物価の上昇でコストが上昇し、採算が合わなくなってやむをえず価格を引き上げるということで起こる物価上昇の場合、国内要因では物価上昇が起こっておらず、GDPデフレーターは下落してしまう。輸入金額の増加を上回るような販売額の増加は起こらずに名目GDPが減少してしまい、国民に分配する所得がかえって減少してしまうことになる。

このような状況では、物価が上昇する中でも所得の増加で消費を支えるということができない。消費は低迷してしまい、小売業では利益を削ってでも価格を引き下げて売り上げを下支えしようとする、というデフレのわなに逆戻りする力が働いてしまうのだ。

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