国民には疑問だらけ、安倍首相の「改憲」提起 自民党内で真剣な議論ができない状態も露呈
最後に、なぜ2020年が期限なのだろうか。首相は9条改正のほか高等教育問題についても触れている。これらと2020年の東京五輪には何の関係性もない。「高等教育を国民に開かれたものにしたい」と真剣に考えているのであれば、憲法改正ではなく、給付型奨学金制度の充実など具体的な政策を打ち出して実現すればいい話である。という具合に首相の問題提起は疑問だらけである。
それ以上に、もしも本当に国会で憲法改正案を審議し、国民投票にかけることになった場合の国内の政治や社会がどうなるかを考えると、憲法改正の現実味はさらに遠のいていく。
具体化すれば、他のことは何もできなくなる
憲法改正手続きは次のように定められている。具体的な憲法改正原案が国会に提出されると、まず、衆議院本会議で趣旨説明と質疑が行われたのち、憲法審査会で審議する。憲法審査会で過半数の賛成で可決されると衆院本会議で審議し、総議員の3分の2以上の賛成で可決となる。そして、参議院に送付され、そこでまた衆議院と同じ手続きを経て可決されれば、国民に対して憲法改正案を発議し、国民投票の手続きに移る。
国民投票は国会の発議の60日後から180日後までの間に行われることとなっており、国会が期日を決め、それを受けて全国的に国民投票運動が展開される。投票は改正される条文ごとに行われ、有効投票の過半数の賛成で国会の発議が承認され、憲法改正が実現する。
安倍首相の提起に対する各党の反応を見るかぎり、民進党や共産党などが激しく反対している。国民の間にも9条の改正には否定的な意見が根強い。したがって、改正手続きにおいて国会審議の段階で、賛成派と反対派が激しく対立することは避けられないだろう。
弱小とはいえ野党は激しく抵抗するだろう。同時に国会周辺は安保法制審議の過程で数万人規模のデモが連日続いたように、賛否両派が入り乱れて連日のデモ、集会の嵐になるだろう。しかも憲法改正の場合は国会審議だけでは終わらない。両院の本会議で可決されても、さらに国民投票に向けて今度は全国各地で賛否両論の激しい運動が展開される。国民投票は公職選挙法の対象ではなく運動は原則自由となっているため、どういうことが起きるか想像もできない。
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