国民には疑問だらけ、安倍首相の「改憲」提起

自民党内で真剣な議論ができない状態も露呈

3つ目は、自民党がこれまで党内議論を積み重ねて作り上げた「憲法改正草案」との関係だ。自民党は2005年に、結党以来初めて「新憲法草案」を取りまとめ公表した。2012年には2つ目の改正案である「日本国憲法改正草案」を公表した。いずれも現行憲法の前文から103条まで、ほぼすべての条文について、細かな字句を含めて修正する案となっている。その内容の是非はともかく、党内のタカ派、ハト派の主張を調整し時間をかけて取りまとめたこの改正案と、安倍首相の提案との関係はどうなっているのだろうか。

安倍首相が前回提起した「96条改正」も今回の「9条改正」も、憲法の全面的な改正ではなく、国民がとっつきやすそうな点だけの改正に絞っている。首相自身「政治は現実であり、結果を出していくことが求められる。改正草案にこだわるべきではない」と語っている。つまり、たとえ一字でもいいから「憲法改正を成し遂げた」という実績を残したい。そのために手を付けやすい条文に絞り込む「小手先改憲」なのである。

国民に説明せず、「身内に提案」という異常

とすれば安倍首相が、憲法改正に積極的な民間団体が主催する集会に送ったビデオメッセージや読売新聞のインタビューで憲法改正を表明した理由も、自民党がこれまで重視してきたボトムアップの手順を踏まなかった理由もわかってくる。身内のような空間で打ち出せば、拍手をもって迎えられる。首相にとっては居心地のいい問題提起となるのだ。

しかし、こうした手法はとても民主主義的とは言えない。歴代首相は国政にかかわる重大な政策の決定や転換を決断した時は、堂々と記者会見を開いて説明し、記者からの質問に答えてきた。首相自らがきちんと国民に向けて説明し、理解を求める手順を踏むことは最低限の手続きであろう。党内議論もなく、仲間内のような集会で発信し、水面下で改憲を進めていくというやり方は、透明性を欠いており、ある種の気味の悪さを持っている。

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