国立「三角屋根の駅舎」復活までの長い道のり 解体保存の部材使い復元、2020年完成めざす

拡大
縮小

さて実際の建築だが、元の解体部材を使用して復元するには、部材の文化財的価値に関する知見を持ち、設計から施工までを一貫して担える事業者が欠かせない。そこで市は2015年度、部材調査と基本設計を含めた内容でプロポーザル公募を行い、応募された複数社の中から竹中工務店に決定した。

現在は東京都の建築審査会に向けて、安全面などについて協議中で、本年中に同意を得て来春より工事に着手する予定だ。完成の予定は2020年2月。再築後の旧駅舎は市の情報発信の場として、観光案内所や展示スペース、多目的スペースなどとして利用されることとなる。

長い歴史に育てられた個性ある街

旧駅舎の復元は2020年に完成する予定だ(提供:国立市)

これまでの長い道のりを振り返り、国立駅周辺整備課の和田さんはこう語る。「実は私、転職組でして、初めて国立駅に降り立ったとき、まあなんときれいな街なんだろうと驚きました。そこでいろいろと調べたりして、この街が90年にわたる長い歴史に育てられてきたことを知ったんです。せっかくまちづくりの仕事をするのであれば、住みたい街のまちづくりをしたいと思いました」

そして「これはあくまで個人的な思いですが」と前置きして、以下のようにも話す。

「昨今は街の再整備ということが言われますが、どこもストーリーがない中で、スペックだけが重視されているような気がするんですね。すると建物や交通機関だけがハイテク化されて、個性がないからスペック競争になって、結果としてどこも同じような街ばかりが作られるんじゃないでしょうか。そんな中で国立には、せっかくこんなに長い歴史に育まれた住環境や文化があるんだから、その個性をこれから先の未来に残していきたい。そのうえでよりよい街になっていければと思います」

昨年来続いている築地市場の豊洲移転の問題もそうだが、われわれはバブル以降、利便性とポストモダン化ばかりを街づくりに求めてはいないだろうか。そうすると和田さんの言うように「スペック競争」となり、没個性で冷たい近未来都市ばかりが生まれる結果となる。

しかし本来、街とはそうではなかったはずだ。かつて見渡す限りの雑木林の地で堤康次郎や佐野善作、河野傳らが抱いた理想と哲学があり、それらを受け継いだ住民たちによる、長く尊い歴史と文化こそが街の本質ではないか。今回これを無下に断ち切らず、まさに失われた20年の間、旧駅舎の保存再生を願い続けた市民たちの熱意と、国立市の尽力に拍手を送りたい。

東良 美季 ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

とうら みき / Miki Tohra

1958年生まれ。カメラマン、音楽PVディレクター、グラフィックデザイナーを経て現職。共著に『新幹線、国道1号を走る』(交通新聞社新書)。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT