圧勝しても未知数な仏マクロン政権の将来 多くの有権者にとって「消極的選択」だった

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ならば当面の政府・議会運営は、どうしていくのだろうか。

まず首相には、刷新をイメージでき、同時にマクロンの議会経験のなさを補う、議会政治に熟達した人物が望まれる。先に挙げたバイル、保守派ジュペ元首相の系列のエドアール・フィリップ、社会党のルドリアン元国防相、サルコジ時代に次期首相候補ともいわれた中道派のボルロー元環境・エネルギー相、マクロンの側近のリシャール・フェランのほか、様々な名前が挙がっている。ただ、6月の国民議会選挙で「マクロン与党」がどれだけの議席を取れるのかが、未知数だ。

いずれにせよ、フランスの政界再編成は不可避である。そこでマクロン派がどのような役割を果たし、どのような政界構造となるのか。

従来の政党とは異なったマクロンの政治グループ「前進!」は、「共和国前進」という旗のもとで議会選挙を戦うことになっている。この政治勢力の行く末は、「ポスト政党政治」の新しいあり方のきっかけになる可能性もある。

今日の世界が抱えている課題

既成政党の否定は、ルペンやマクロンというアウトサイダーが飛び出した背景である。いずれもトランプ現象と呼ばれる状況に似ている。

この現象は欧州や世界に拡大していくのだろうか。第2回投票でこれまで最高の34%近くの支持票を得た国民戦線の大躍進は明らかだったが、大統領の椅子は逃した。一気に大統領誕生の姿を夢見た熱烈な支持者には大きな挫折感がある。マリーヌ・ルペン現党首の下、「脱悪魔化(ソフト路線)」を目指したこの政党の、今後の路線闘争をめぐる議論がかまびすしくなる可能性は高く、内部分裂の危機さえはらんでいる。フランス国民は、ポピュリズムという形での社会不満の表出は認めたが、彼らに政権を取ることまでは許さなかった。ポピュリズムの拡大は、現時点では限界がある。

しかしその温床が断たれたわけではない。インターネットをはじめとする情報氾濫の時代、「ポスト・トゥルース」と呼ばれる現象が拡大している。結果が真実を捏造する。そこでは、民主主義の原点である信頼関係と誠実さは問題とされない。つまり説明責任の欠如であり、ポピュリズムがもたらす民主主義の破壊である。これらは「トランプ現象」が投げかけた今日の世界的課題ではあるが、大統領になるために巧みに言説を弄し、その場しのぎの発言を繰り返したルペン候補が決選投票に残ったことの、真の危険はそこにあったのである。(敬称略)

(文:渡邊 啓貴/東京外国語大学大学院教授)

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「Foresight」編集部

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