都市公共交通の新潮流・路面電車 国は道路財源使い建設を促進せよ

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では、なぜ今、路面電車なのか。

第1に、市内の商店街との親和性の高さだ。モータリゼーションの進展が、国道沿いのロードサイド店や郊外型大規模店舗を栄えさせた代わりに、駅前や市中心部の商店街を衰退させてきたことはよく知られている。これに対し路面電車は逆に、市内の在来型商店街に顧客をもたらし、地域振興に貢献する。

第2に、路面電車は、階段を経ずに道路から直接乗車できるため、高齢者、身障者などの交通弱者に優しい。今後高齢化が進めば、自家用車を利用できない人々が増加する。路面電車はこうした人々にとって最も利用しやすい公共交通機関である。

第3に、同じ公共交通機関の路線バスと比較して、時刻表どおり運行する定時性に優れている。これは乗客にとって大きなメリットだ。

第4に、建設費が安い。新交通システムの10分の1、地下鉄の20分の1の建設費で可能だ。

第5に、環境面での優位性だ。路面電車に限らず、鉄道は排ガスを出さないだけでなく、一定速度に加速してからは慣性で走行するため、公共交通機関の中でも最もエネルギー効率が高い。

富山県は、1世帯当たりの自家用車保有数が全国第2位(05年3月末)と高く、国道沿いに路面店が発達しており、本来、公共交通機関にとっては極めて厳しい環境にある。それにもかかわらず、富山市が路面電車を中核とした公共交通機関の整備を進めてきたことは、今後の日本社会の変化と将来のニーズを先取りしているわけであり、高く評価したい。

公共交通機関は、鉄道、地下鉄、バスに加え、モノレール、新交通システムなど、ハード面のバリエーションが増えた。路面電車でも大きな進歩が見られる。

一つは、最初ヨーロッパで開発され、国内でも製造されているLRT(Lihgt Rail Trail)と呼ばれる新型車両である。これは超低床構造でバリアフリー思想が徹底している。すでに前述の富山市や広島市などに導入されている。

電力架線が不要な車両も出現

さらに最近では、二次電池(充電池)を使用したまったく新しい車両をJRグループの鉄道総合技術研究所や川崎重工業が開発した。最大の特徴は、電力を二次電池に充電して走ることで、電力架線が不要となる。充電は、乗客の乗降の際、停留所に備え付けの電源装置に電極を接続して行う。架線が不要であることは、建設費の削減に大きく貢献する。

またブレーキをかける際にモーターを発電機として使い、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して二次電池に回収するため、エネルギー効率が非常に高い。

鉄道総研の実験では、往復約1キロメートルの試験区間でリチウムイオン電池にフル充電してから約半分の容量になるまで、15往復以上の走行ができた。この走行結果によれば、500メートルおきに停留所のある15キロメートルの路線を走行することが可能だという。

川崎重工の「SWIMO」も、主要なコンセプトは鉄道総研の車両とほぼ同じだが、二次電池がニッケル水素電池である点が異なっている。当初年間150~300両規模で生産し、価格は3両1編成で2億5000万~3億円を想定している。

このように、路面電車には新たな都市公共交通として多くのメリットがある。これは欧米では広く認知されている。国は路面電車導入への支援を表明しているが、ここはさらに踏み込んで、道路財源を使って財政的に建設を後押しすべきだろう。

(福永 宏 =週刊東洋経済)

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