JALの新たな成長戦略は、なぜ「控えめ」なのか 過当競争続くアジアでLCCと一線画す
背景にあるのが前回の中期計画から引き継がれた「営業利益率10%以上」という目標だ。規模を拡大した揚げ句、座席を埋めるための安売りで利益が出なくなるのは避けたい。過去5年間を平均すると14%ほどの利益率だった。「エアラインとしては高い利益率だったと自負している」(植木社長)。
実際、航空業界の国際機関であるIATA(国際航空運送協会)によれば、業界全体における過去5年間の営業利益率は5%強。燃油費や為替レートの変動だけでなく、テロや伝染病などのイベントリスクにさらされやすい航空会社が高い利益率を維持するのは難しい。
「引き続きフルサービスキャリア(FSC)事業を磨き上げる」。植木社長が語る、利益率を維持するためのJALの基本姿勢だ。2016年度末の利益剰余金は6500億円弱と、競合のANAホールディングスの倍の水準。豊富な資金力で座席やラウンジなど、FSCならではのサービスを充実させ差別化する方針だ。
LCCを取り込むANA、一線を画すJAL
アジアの空では今、各国のLCC(格安航空会社)が参入し過当競争となっている。利益が出ないなら無理をする意味はない、というのがJALのスタンスだ。今回の中期計画では、JALが33%を出資するLCCのジェットスタージャパンにはまったく触れられていない。その理由について、「LCCは自社のコア領域とは考えていないため」(西尾常務)としている。
一方、競合のANAホールディングスはLCC事業を成長戦略の中核に据える。もともと100%子会社だったバニラエアに加え、この4月にピーチ・アビエーションも子会社化した。2020年度にはLCCの売上高として、現状の2倍以上の2000億円規模を見込む。アジアだけでなく米国西海岸まで飛べる中距離LCCへの参入も検討する。
ANAHDは機材数を2016年度末の268機から、2020年度には335機前後と60機以上も増やす。FSCでもLCCでも規模拡大でシェアを取るという姿勢。イベントリスクは付きまとうが、需要拡大の波に乗れば高い利益が出る。JALとは正反対だ。
控えめなJALの姿勢に対し、株式市場からは「ここ数年で訪日観光や出張需要が高まった。目の前にある成長機会をもっと取っていってほしい」(シティグループ証券の姫野良太アナリスト)といった声も聞かれる。配当性向の引き上げなど株主還元は強化したが、豊富な手元資金をどう使うか、十分な説明があったとはいえない。
競争が一層激化する中、あくまでサービス重視を掲げるJAL。今後も高い利益率を維持できるか、植木社長以下、経営陣の真の実力が試されることになる。
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