北朝鮮危機で露呈する日本の「決定的弱点」

低すぎる国民と政府の危機管理意識

そもそも日本政府がサリンの解毒剤の備蓄を始めたのはオウム事件から20年過ぎた2015年ごろからである。それまでは日本独特の「危機は頻繁には起こらないだろうから予算の無駄ではないか?」といった心理からか、ほとんど備蓄されていなかった。それが安全保障意識の高い安倍内閣が長期政権化してから、やっと1回は行われた。だが、補正予算によるものが限界で、継続的に備蓄されるかは期待できない。

仮に備蓄が十分でも、今の日本の法律では、医師以外の人が解毒剤を注射することは違法行為になる。被災地が広範にわたった場合、それぞれの地域に大量の医師を配置し、解毒剤の注射だけに専念させることは難しい。ミサイル着弾による負傷の手当に加えて、第2波攻撃や、地元の通常の事故や急病への対応も考えて医師を配置しなければならない。

間違った日本人の危機管理意識

地下鉄はどうか。東京メトロでは、地下鉄サリン事件以来、何度か各駅に駅員の人数分の防毒マスクを配布することを計画したが、実施できなかった。「駅員だけが生き残るつもりか!」といった批判を恐れたといわれている。これも極めて日本的な事例である。駅員が無事でなければ、どうやって被災した乗客を救助できるというのだろうか。

正直、これまでの日本人の危機管理意識はあまりに間違っていたと思う。その間違った危機管理意識を、今回の北朝鮮問題で改善するべきだ。それは、日本人の被害軽減のためにも極めて重要だろう。

そこで、まず何をすべきかというと、とりあえず政府や自治体の職員だけでも、できるだけ多くに防毒マスクを配布するべきだ。彼らが使う、密閉性の高いシェルターも必要だろう。内閣官房は「国民保護ポータルサイト」で地下街への避難を推奨しているが、毒ガスなどは地下に浸透する可能性もある。密閉性の高いシェルターの必要性は低くはないはずだ。

もちろん、全国民のために、それらを用意できれば理想である。しかし、そんな時間的、予算的な余裕があるのだろうか。政府や自治体の全職員のためのものを用意することでさえ簡単ではない。住民救命の直接の担当者から順次用意するしかないだろう。こうした提案には、抵抗があるかもしれない。しかし、繰り返すが、救命活動の担当者が無事でなければ、住民の救命もできないのである。

おカネに余裕がある個人は、自分や家族用に、簡易でも密閉性の高いシェルターや防毒マスクを購入してもいい。そのような人を「自分だけ助かろうとしているエゴイスト」と批判するのではなく、「危機発生時に近隣住民を助けるための準備を私費で行っている人」と称賛するくらいに、日本人の意識は変わる必要がある。その一家が助かれば近隣住民の救命活動も手助けできるのである。

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