「気性の荒い独裁者」を見くびってはならない 米攻撃が全面戦争につながるリスクは多大だ

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また、金正恩氏が8歳か9歳のとき、オセロゲームをしていた際に、そばに立っていた3歳年上の兄の金正哲(キム・ジョンチョル)氏がオセロゲームの玉を落としたところ、頭に来た正恩氏は兄の顔をめがけて、その玉を投げつけた。藤本氏は著書『北の後継者 キム・ジョンウン』で「大事にはいたらなかったが、ジョンウン大将の気の強さに私は驚いたものだ」と述べている。

さらに、 金正恩氏が10代半ばのとき、大好きなバスケットボールを一緒にプレーした選手たちに、試合後、「さっきのパス、とても良かった」と手を叩いて褒めた。その一方、ミスを犯した選手には、厳しく叱っていた。そして、その後、「彼のことをあんなに怒ったけれど、大丈夫かな、立ち直れるかな?」とフフフフと笑みを浮かべながら藤本氏に話したという。つまり、金正恩氏は10代半ばにして、計算尽くで選手を怒っていた。

また、2000年8月、2人は元山招待所から平壌に向かう列車の中で酒を飲みながら夜明けまで5時間にわたり、いろいろと話し合ったという。その中で、17歳だった金正恩氏は「わが国は、アジア(のほかの国)を見ても、工業技術がずっと遅れている」「わが国の人口は2300万人だが、中国は13億人もの人口なのに、統制ができているのはすごいよね」などと話し、北朝鮮の現状や将来を案じていたという。

金正恩氏は、大阪市生野区鶴橋生まれの帰国在日朝鮮人、高英姫氏(2004年没)を母に持つ。藤本氏によると、小さい頃にはその母に連れられて日本にもお忍びでしばしば来ていたという。また、少年時代にはスイス・ベルンのインターナショナルスクールに留学。インターネットにも詳しく、国際事情にも精通しているとされる。

「うかうかすると金正恩とは本当に戦争になる」

金正恩氏の気性の激しさや冷徹さの部分は今も変わらない。2013年12月には叔父の張成沢氏を処刑、今年2月には異母兄弟の金正男(キム・ジョンナム)氏毒殺を命じた疑いが持たれている。処刑した人物はこれまでに300人を超える。

元公安調査庁調査第二部部長の菅沼光弘氏は筆者の取材に対し、「なぜ金正日が、金正男でも金正哲でもなく、金正恩を後継者に選んだのか。北朝鮮の最高指導者になる者は、胆力がなければならない。胆力とは何か。後顧の憂いなく戦争ができることだ。だから、『危ないよ』と私は警告している。金正日は戦争をできなかったが、うかうかすると金正恩とは本当に戦争になる。それくらいのことはやる」と話している。

危機や有事の際には、次の一手を読む上でも、指導者のプロファイル分析が必要不可欠だ。しかし、隣国の独裁者、金正恩氏とは何者か、との議論や分析が日本国内で十分に尽くされていると言えるだろうか。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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