マツダがシェア2%でも存在感を放つ理由

台数や売上高を最重視しないから復活できた

そもそも経営危機に陥ったのはトヨタの背中を追って、規模を追い続けようとしたからですが、今のマツダ社員からは「私たちは世界でシェア2%しかないメーカーですから」という発言が頻繁に聞かれます。

ただ、決してこの2%を単純に卑下しているのではなく、世の中に2%以上いるはずの「走る歓び」を感じられるクルマを求めている顧客に強く共感される突き抜けたクルマを作る会社になる、ということが社内で共有されている点がポイントです。

バブル時のマツダは大幅値引きで安かろう悪かろうというクルマを売っている印象が強くあったようですが、このスタンスを明確に決めることで、「値引きしないと買ってくれない顧客を無理して追いかけない」という方針が明確になり、「高くても欲しいと思われる車」作りという方針が明確になり、営業現場も「正価販売」という、無理な値引きに頼らない戦略が選択可能になるわけです。

当然、このマツダの戦略転換においては、部外者が想像できないレベルで激しい社内の議論があったことは容易に想像できます。自信を失っている社員が新しい方針になじむには時間も必要だったはずで、マツダの復活に時間がかかっていることもうなずけます。

ただ、マツダの経営陣は、この価値観をトップから現場まで徹底的にやりきったそうです。

販売台数を重視するのではなく

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象徴的なのはいわゆるKPI(重要業績評価指標)でしょう。KPIとはマーケティング用語で、最終的な目標に対して必要な途中の評価を定める指標です。

通常の自動車会社であれば、当然販売台数や売り上げがいちばん重要な目標になるはずですが、マツダはそういった指標ではなく、2%の顧客を重視するためにKPIもすべてひっくり返したそうです。

たとえば、販売台数を重視するのではなく、購入した顧客の満足度を重視する。単純に値引きしてでもつくる売り上げを重視するのではなく、正価で販売できている売り上げを評価するように注意する。売り込みが終わったら知らんぷりを決め込むのではなく、引き続きサービスの部隊が既存顧客に手厚いサービスを提供できるような体制を作る。

象徴的な取り組みとしては、記事冒頭の写真でも紹介している2014年に実施されたマツダロードスターのファン感謝イベントが挙げられます。通常であればメディア向けに1番に実施する新車発表会を、マツダはロードスターの25周年と4代目のロードスターのワールド・プレミア・イベントとして、1150人ものファンと一緒に祝うという選択をしたのです。

メディア向けのPRという観点からは、メディアの記者から不評を買うリスクもある取り組みのようにも聞こえますが、この瞬間に立ち会えたロードスターファンの方々は間違いなくこのときの経験を一生忘れないはず。マツダが全社的に何を重視するようになっているかが、よく伝わってくる話だと思います。

そうした会社全体での方針転換や文化の転換があるからこそ、マツダは昨年のマーケティング大賞を受賞するほどの成功事例になったということができるのです。

一方で、足元のマツダはこれまでの成長の反動もあり、いよいよ正価販売が限界に来ているという見方もあるようです。東洋経済オンラインでも「マツダの悩みは『トランプリスク』より深刻だ」 (2月5日配信)で指摘しています。

ある意味、マツダは成功したからこそ、あらためて世界シェア2%に特化する戦略を続けるのかどうかが問われている、ということもいえるかもしれません。

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