アディーレの不適切業務めぐる「処分」の重み

懲戒の段階によって影響は断然変わってくる

相場観が問われそうですが、実は弁護士による広告は長く規制されており、これが解禁されたのは2000年。そこから現在に至るまで、広告についての懲戒というのは全期間を通して数件と極めて数が少なく、本件とピンポイントで類似する事案は存在しません。また懲戒が弁護活動の広い範囲の問題をカバーする以上、どの程度の処分を科すかについては客観的、一義的な基準がありません。

本件は、「戒告」で済むのか、「業務停止」になるのかで、その後の影響に大きな差が出る事件です。

また、懲戒の重さとは別に懲戒対象の範囲、「ボスの(事務所の)問題に巻き込まれて懲戒対象となる若手弁護士」の扱いについても、業界内外の注目点でしょう。

アディーレ側は、懲戒された石丸弁護士以外のアディーレ所属弁護士について「広告にかかわっていない」として懲戒しないよう求めていると聞いています。若手弁護士の離反や退職を防いで事務所を守ろうとする経営側の事情も想像できます。

責任の所在はどこに?

今回のケースについて責任の所在を実質的に考えるなら、アディーレで「広告戦略を誰が決定していたのか」という点が問題になりそうです。アディーレ内部の権限分掌については現在明らかではありません。事情に詳しい関係者に聞くかぎり、広告戦略はごく2~3人のトップが判断しており、かつ実際に広告戦略にかかわっていた幹部が懲戒対象になっていない一方、まだ若手で権限のない弁護士が懲戒請求の対象となっている可能性もあるようです。

おそらく懲戒請求に当たって、懲戒請求者はアディーレ内部での権限分掌を調査できないでしょうから、そうした齟齬(そご)は十分ありえます。とはいえ、どの所属弁護士もアディーレのHP、広告内容は見られるわけですから、それをやめさせるよう事務所のトップに働きかけることはできたともいえます。となると、責任の所在についてはある程度形式的に判断せざるをえません。具体的には通常の会社で取締役に相当する「社員」はより責任が重くなるといえます。

ただ、昨今の若手弁護士を取り巻く就業環境は決して余裕のあるものではありません。解雇されたら明日の生活はどうしようと考えている若手弁護士も現在は多いと聞きます。名だたる名門事務所ですら上司の命令は絶対であり、上司の問題行為に巻き込まれ、懲戒の憂き目に遭っていると思われる若手の弁護士がいることは事実です。

アディーレにおいて、事実上若手の弁護士がトップに広告方針を変えさせるような進言をすることができたかについて慎重に考え、形式面を見るとしても「社員」に就任している弁護士がどこまで権限を持っていたのか、いわゆるブラック企業の「名ばかり管理職」のような観点も必要だと感じます。

具体的に申し上げると、弁護士法人が支店を出す際、どの支店にも必ず「社員」を置かねばならないことから、事務所内で権限を有していなくても、とりあえず地方の支店に配置した若い弁護士が「社員」として登記されることは珍しくないことなのです。

「どの弁護士も専門家で独立した存在である」という考え方は建前としてあっても現在の状況には必ずしも当てはまりません。アディーレのように、組織化してサービスを展開する法律事務所では、弁護士であっても、上司の命令に逆らえない弱い立場の部下とならざるを得ない局面もあったでしょう。そうした点を考慮に入れず、実質的な役割の精査なく形式的に責任ある立場とする判断は、あまり望ましいとはいえません。

上司に逆らうだけの力がなく誤った行動をとってしまった弁護士は、専門家でありつつ他方社会的には弱者としての側面も有しています。懲戒すべき事実については厳正に審査を行うべきでしょう。一方で、若手の弁護士に弁護士人生を通して記録が残る「懲戒歴」という烙印を押すこと、また手続きの中途であり、本来非公開である綱紀の段階で情報がどのように発表されるかというあり方については、より慎重を期すという考え方もあろうかと思います。

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