ルペンvsマクロン、迫る仏大統領選の読み方 中産階級の崩壊で既成政党は見放される

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しかし、グローバリゼーションによって、先進国では中産階級の崩壊が起こった。今回のフランス大統領選の争点は、移民、テロ、失業、経済成長、治安の問題であるが、どの問題を見ても、グローバリゼーションによって生み出された問題であるといえる。海外に移転した企業は、国内で自国労働者の雇用を減らし、低賃金の移民労働者の雇用へとシフト、それが失業率増大と治安悪化を生み出し、テロの温床となってしまった。さらに、リーマンショック以後の経済悪化が絡み、失業率は高止まりし、年金や生活保護の金額は低下、市民は中産階級としての幻想すら、もはや維持できなくなってしまったのである。

もちろん、EUによる経済発展とグローバリゼーションによる経済発展が達成されれば、こうした状況から脱却できるかもしれない。しかし、オランド政権下で進められた経済の自由化政策は、経済成長を実現できるどころか、大きな批判と失望をもたらしただけであった。そこで多くのフランス人は、EU参加と経済自由化による成長を主張する社会党と共和党から離れていったのである。2つの政党は中央左派と中央右派、つまり中央派となり、その周縁にいた極右と極左が、いつのまにか右派と左派になってしまったのだ。

その皮肉な現象が1月にあった社会党の大統領候補選出の選挙である。この公認の社会党の選挙を勝ち抜いたアモンは、社会党の公認ではない2人の元社会党員である、マクロン、メランションという異端児の支持率に、遠く及ばないのである。これは、かつてはありえないことであった。長年にわたる社会党内の分裂を象徴しているといってもよい。

公認候補が非公認より人気ない社会党

社会党が政権与党として、ある意味、権力とカネにまみれることになったのは、フランソワ・ミッテラン政権のときであった。国有化した財産を民営化する中で、利権を得た社会党の議員たちは、政権のうまみを知り始めた。それまであった労働者の党という色を脱色し、進歩の党というイメージを植え付けるようになったのだ。社会党は進歩と経済成長を目指す党、というイメージは、ミッテラン時代のEU政策と深く関連している。マーストリヒト条約や、シェンゲン協定による経済成長の夢は、社会党右派の好むところであったが、それがある時期から社会党そのものの色になっていった。

オランドやセゴレーヌ・ロワイヤルはこの流れの中にある。盛んにEUへの参加と経済の自由化を主張するのはこうした流れの人々である。一方で、マルチーヌ・オブリのように、これとは反対に労働者の党という意識をもつ流れもある。その流れこそ、今回マニュエル・ヴァルスを破り、アモンを党の候補にしたのであった。オランドの流れの代表はヴァルスだったが、結局失敗し、今ではマクロンへといっている。

しかし、この社会党左派の流れには、分裂したメランションのような、さらに労働者寄りの流れがある。結果的に社会党は3つに分裂した。労働者の党としての社会党は、左翼党のメランションと社会党のアモンが代表し、EUと自由化支持は無党派のマクロンが代表するという、対立図式が出現している。EU残留という点ではアモンとマクロンは同じ。もっとも、アモンのベーシックインカム論を労働者寄り、というのには語弊があるかもしれない。自由主義的政策でもあるからだ。それがアモンの伸び悩みに繋がっている。

保守党の共和党は、アラン・ジュペ、サルコジ、フィヨンの3人で党としての代表候補を争い、フィヨンが勝利した。オランドの不人気から言えば、今度は共和党のフィヨンで大統領は決まりのはずだった。とはいえ、サルコジより右で、風貌から見て今ひとつ人気のないフィヨンは、反テロ対策を強調することで人気上昇を狙ったものの、結局反テロへの関心が薄れたことで失墜。さらに、妻と息子たちに対する秘書給与の不正受給問題などもスキャンダルとなり、大統領の本命からずり落ちていく。

要するに、共和党の公認候補も社会党の公認候補も、いずれも大統領になる可能性がない、という事態に至っているのだ。

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