「毎年採用」を漫然と行う会社が崩壊するワケ 人の採用は遠い先を見越して考えるべきだ

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まして、これからの時代、舞台が「歌舞伎の舞台」から「ミュージカルの舞台」に変わる、その岐路に立っている。ですから、いまから、人の採用については十分に考え、採るべきは採る、我慢するところは我慢する、という対応をしなければなりません。

「今」の基準、「今」の考えで、「今までどおりの考え」で、人を採用していくと、過剰人員になるということです。過剰設備は、なんとかやり繰りをして廃棄処分にしても禍根を残すことはありませんが、社員のリストラは、できるだけ抑えることが好ましい。私は、経験的に、そのように感じています。

「不幸な状態」に陥らないために

それならば、過剰人員を抱えないためにどうするか。それが「隔年採用のすすめ」です。すなわち、「毎年採用」から、「隔年採用」に転換すること。1年おきに採用をしていくということです。そうすることによって、必要以上の社員を抱え込まなくて済みます。社員が、今のメンバーで、なんとか仕事を処理すべく、人手ではなく、仕事の進め方で対応しようと知恵を出すようになります。採用した人材の教育を徹底できます。仕事の技術をしっかりと伝達できるようになります。もし、途中で、どうしても採用しなければならないという事態になれば、中間採用をすればいいのです。

隔年採用を行えば、業績悪化時にもリストラをしなくて済む可能性が高まります。たとえリストラをしても、現在の5分の1程度、したがって、怨嗟(えんさ)も最小限に食い止めることができ、また、社員も30代、40代でリストラされることもほとんどありませんから、「不幸な状態」に陥ることもなくなります。

誤解を避けるために繰り返しますが、筆者は「毎年採用」を全面否定するものではありません。しかし、10年後、15年後に、劇的に、非連続的に時代が変わるということを十分意識した「人の採用」を考えておかないと大変なことになりますよということです。また、「人間大事」の考えに立った採用をすべきですよ、会社の都合で、勝手に採用し、勝手にリストラすることは、会社、社員両者にとって不幸残酷になりますよ、ということを経営者、また責任者の人たちは、しっかりと心に留めておく必要があるということです。

『論語』に「人、遠き慮(おもんぱか)り無ければ、必ず、近き憂い有り[人無遠慮、必有近憂]」とありますが、経営者たる者、責任者たる者、つねに先を読んで今に対処すべきではないかと、このところ、進行しつつある第4次産業革命をつらつら考えながら、また、「人間大事」の観点から、企業の採用について思いをめぐらせています。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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