シリアに対するトランプの「悔い」とは何か アサド政権への考えを改めた米大統領

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この場合の「古い敵」とは旧ソ連、つまりロシアである。つまりトランプ政権は、ロシアとの関係を改善させ、共同でイスラム国打倒に力を尽くそう、と言っていたわけだ。

これまでシリア国内では、アメリカは反アサド勢力を支援し、ロシアはアサド政権支援、と対立構造にあった。ところが先のトランプ宣言では、アメリカはロシアと共同歩調をとる=アサド政権を敵視しない、と読み取ることもできる。そしてアサド政権はその通りに受け取った。だから反政府勢力に対し、無慈悲な化学兵器攻撃を行ったのだ。

トランプ大統領のシリアに対する「考えの変化」

自らの外交政策が、アサド政権に誤ったメッセージを送ってしまった――トランプ大統領のそんな悔恨の思いは、4月5日の「(アサド政権は)いくつもの一線を越えた。シリアとアサド大統領に対する考え方が変わった」という言葉に端的に表れている。特に多くの子供が犠牲になったことに対し、大統領の怒りはヒートアップしたのだろう。迅速な行動の背景には、このようなことがあったと思われる。

今回の軍事行動は、北朝鮮の後ろ盾である習近平・中国国家主席との米中首脳会談の最中に決断され、実行された。トランプ大統領は世界に「やるときはいつでもやる」姿勢を見せつけた形だが、これが中国や北朝鮮も視野に入れたものなのかどうかは、今のところ推測の域を出ない。

確かに、核ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して、米政権内で軍事オプションが検討され始めているのは事実である。米中首脳会談の最中というタイミングが選ばれたことについても、さらに考える必要がある。

もしも、今回のミサイル攻撃が中国や北朝鮮へのブラフの意味も込めたものだとすれば、なかなかしたたかな外交だということもできようが、そこまでの意図は込められていなかったかもしれない。ただ結果的には、「やるときにはやる」アメリカの姿勢を強調することになったのではないかと思われる。

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「Foresight」編集部

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