私はボスニア紛争後にバルカン諸国で長く時間を過ごした。旧ユーゴへのEU特使、ボスニア紛争を終結させたデイトン和平会議の共同議長、ボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表、そしてバルカン諸国における国連事務総長特別代表としてだ。
昨年、私的にボスニアを再訪したときのことだ。現地の方から「また戦争になりますか」との質問を受けた。「まさか」と、最初は受け流していたが、5回も別の人から同じことを聞かれて、不安になってきた。
当時とは状況が違うから、1990年代のような紛争が再び起きることはないだろう。だが、歴史が教えるように、個人の愚行によって火の手が上がり、手がつけられなくなることがある。かつてサラエボでは、ガヴリロ・プリンツィプという1人の青年がオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公を暗殺し、第1次世界大戦の引き金を引いた。
今日のバルカン半島は一触即発の状態に近づいており、新たに火花が散れば、炎が燃え上がりかねない。ひょっとすると、今度はマケドニアの首都スコピエが発火点となるかもしれない。
紛争を防ぐために欧州がすべきこと
では、どうすべきか。欧州にできることは、ただ1つ、欧州統合のプロセスを加速しつつ、紛争を阻止する力があることを見せつけることだ。バルカン半島に欧州連合戦闘群を配置し軍事演習を行うことで、EUには行動する意志と手段があることを示さねばならない。これによって、EUの軍事力が口先だけの張り子の虎ではないという強力なメッセージを送ることができるだろう。
EUのさらなる拡大も不可欠だ。バルカン地区のうちEU加盟国となっているのはスロベニアとクロアチアのみで、残りが欧州に加入するまでには当然、時間がかかる。だが、これらの国が加盟条件を満たせるように改革を加速することはできる。
たとえば、アルメニア、アゼルバイジャンなどとの連合協定・東方パートナーシップにならい、バルカン半島パートナーシップを創出すべきだ。同地域への政治的関与も強める必要がある。今も続いている小規模な国境紛争を仲裁し、情勢悪化を防ぐことが、その出発点となろう。
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