英国のEU離脱は失敗が目に見えている

1年後には英国の交渉力は弱体化する

アイルランドと生活圏が同じである北アイルランドでも、独立に向けた住民の支持が高まっています。3月初めに実施された北アイルランドの自治議会選挙では、アイルランドへの併合を求めるシン・フェイン党が躍進し、英国による統治を望む第1党の民主統一党と匹敵する勢力に拡大したのです。シン・フェイン党もまた、アイルランドとの統一をめぐる住民投票の実施を目指しています。

こういった経済の停滞や王国の分裂といったリスク要因を抱えながら、英国は欧州委員会、欧州議会、EU27カ国のそれぞれと厳しい交渉に臨まなければなりません。それぞれの組織や国々は自らの譲れない一線を決して妥協することはないでしょう。というのも、英国との交渉で時間が経過するほど、英国の交渉力が弱体化し、自らにとって有利に働くということがわかっているからです。とりわけ独仏などの大国は、英国に拠点を置く企業が自国に移ってくるだろうと計算しているのです。

交渉が長引くほどEU側に有利な展開に

ですから、EUが英国に妥協するという選択肢は、どう考えてもありえないことです。英国は合意に達するまでの時間との戦いに苦しむ一方で、EU側は合意に達しなければならないという緊急性がなく、英国が離脱の高い代償を支払うことを世界に知らしめたいと思っているはずです。そういった意味では、EUは英国に対して厳しい態度を貫徹することになるのではないでしょうか。

EU側は英国に対してすでに、過酷な先制パンチを放っています。EUの執行機関である欧州委員会は、英国に離脱費用として巨額の支払い(最大で600億ユーロ)を請求するというのです。離脱費用を求める根拠は、英国が離脱を決定する前に約束していたEU予算の分担金などの支払い義務にあります。EUは英国がこの費用の支払いを保証しなければ、一切の交渉には応じないという厳しい姿勢を示しています。

EUが英国に対して厳しい姿勢を示し続けることによって、英国が高い代償を支払わざるをえない状況になれば、他の国々の反EUを支持する人々は「EU離脱は割に合わない」という認識を持つようになっていくでしょう。要するに、英国が経済的にも政治的にも苦境に陥るという結果になることが、EU各国で勢力拡大を図っている極右政党を衰退させると同時に、EU統合を深化させる格好の材料として見なされているというわけです。英国はEUとの交渉で圧倒的に不利な立場にあるというのに、本当に離脱をすることができるのでしょうか。甚だ疑問です。

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