伊豆急「1両だけで走る旧型電車」復活の狙い 観光客の人気呼ぶ開業時からの「クモハ103」

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集客、収益性以上に、安全運行を妨げる可能性があるということになると、これが懸案となるのは鉄道会社としては当然のことであった。

復活に向け車両区で検査を受けるクモハ103(写真提供:伊豆急行)

「現代の電車は、基本的には1編成中に複数の電動車ユニットが組み込まれていますから、仮に1つの電動車ユニットが故障しても、他の電動車の力で動かすことができる。けれどもクモハ103は1両きりで動く電車ですから、故障があったら、即、他の列車を仕立てて、これを救援に向かわさなければならない。これはダイヤ構成上では大きなネックと考えられることでした」

それでもクモハ103が営業運転に至ったのは、車両の保守、管理を行う現場の頑張りも大きかったのだという。「幸いなことに、運転を開始した後のクモハ103の電気品は、抵抗器の故障が1回あっただけでした」と比企さんは語る。

ついに復活!「冷房なし」も魅力に

こうして2011年11月、クモハ103はついに復活を遂げた。

「営業面では、クモハ103は貸切での運転を考えていましたが、特に運転開始後しばらくの間は、十分な集客はできませんでしたから、色々な手を打って、集客に努めました。それは例えば、沿線のあじさい祭りの時期に『あじさい祭り号』と銘打って臨時列車として運転し、一般の乗客の誘致を図るといった具合でした。嬉しかったのは、多くの同業他社の方がクモハ103の復活運転に理解を示してくれ、貸切電車としてご乗車いただけたことでした」

営業運転開始後のクモハ103は、映画のロケなどに駆り出されることも多くなったという。現代の、銀色のフラットな形の電車とは異なる味わいは、確かにクモハ103の大きな魅力であるに違いない。

「もう一つ、私たちが想像しなかった嬉しい誤算には、クモハ103が非冷房で、窓が開くということが、乗客の皆さんには魅力と映ったことでした。窓を開けて、風を感じながら走る電車が、もう首都圏にはほとんどないのですね。実際の営業運転では『トンネル内では窓をお閉め下さい』というような車内放送を行っておりますが、これも昔の鉄道旅行の姿に思いを馳せるのには、良いことなのかもしれません」

復活したクモハ103は、臨時列車や貸し切り運転に加え、ツアーにも活用されているという。貴重な車両を活かした集客の一環だ。

「一口に集客と申しましても、いろいろな形態が考えられます。私たち伊豆急行の人間にとっては、伊東までやって来たお客様には、さらに稲取、下田へと足を延ばして頂きたい。そこで、電車を定期観光バスのような形で運転するツアーも実施しました。クモハ103に乗って、沿線の幾つもの観光スポットを順にまわっていただく。最初は下り電車に乗っていただき、伊豆稲取駅で一度下車してお寺を訪ねる。電車に戻ってきたら、車内で駅弁を楽しみながら、今度は下田に向かう。そして帰りの電車では車内でスイーツを楽しみ、今度は伊豆熱川駅で下車して日帰り入浴を楽しむというような行程です」

次ページ今後も「可能な限り走らせ続ける」
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