伊豆急「1両だけで走る旧型電車」復活の狙い

観光客の人気呼ぶ開業時からの「クモハ103」

クモハ103は、現代の鉄道では希少な存在となった両運転台付きの車両だ。この電車が1両のみで本線上を走ることが鉄道ファンを喜ばせることは容易に想像ができたが、その前に採算性の問題という大きな関門が立ちふさがった。

車体両側に運転台のあるクモハ103。両運転台の車両は現在では稀少な存在だ(写真提供:伊豆急行)

「クモハ103号は1両で運転される電車ですから、それを復活させてお客様を乗せて走っても採算が取れるのか、という議論は当然生まれるわけです。鉄道という交通機関は、多くのお客様に長い距離を乗ってもらって、初めて利益が出る。仮にクモハ103に50人乗ってもらったとしても、運転士と車掌の手配は長い編成の列車と同じですし、単行(1両)で走る電車は、採算性で不利なことも多いのですね」と比企さん。

しかし、クモハ103を、形がまるで違うほかの電車と連結させたとしても、伊豆急行の開業時を偲ぶことは難しいだろう。クモハ103は、やはり単独で走行してこそ、復活の価値がある。だが、鉄道ファンであれば拍手喝采間違いなしの企画であっても、会社の事業ということになれば、その推進には多方面を説得するだけの希求力が求められることになる。クモハ103が、いわゆる“古くさい形をしたチョコレート色の電車”ではないことも、逆に不安の材料となった。

「クモハ103を“レトロ電車”と説明しても、一般的にはそれが通じないのですね(笑)。そのような中でも、社長のリーダーシップがあって、とにかく電車は復活した。すると次には、これをどう活用するのか、という課題が生まれてくるわけです。営業的には『年間に何日間動かして、どう集客をして、どう償却を進めてゆくのか』という部分をクリアーしなければならないのですね。当社の主力である2100系『リゾート21』に連結して走らせることも検討しました。しかし、これには技術的な課題もあって、やはりクモハ103は1両で走らせるしかない、ということになったのです」

営業面だけではなかった懸念

実際には、復原工事も一筋縄では行かず、改めて点検をしてみると、車内のあちこちには穴が開き、難問をひとつひとつ潰してゆく作業が繰り返されたのだという。幸いだったのは、入換用とはいってもクモハ103が稼働状態にあったことから、電車として動くために必要な部分が劣化を免れていたことと、クモハ103と同形のクモハ100形を、保存を目的として所有していた車両メーカーがあり、この車両が解体された時に部品を融通することができたことだった。

だが、懸念は営業面以外にもあった。「何か電気品に不具合が生じた時に、電車が立ち往生してダイヤを乱す可能性があるのではないか、という点が懸念されました」と比企さんはいう。

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