「財政赤字の拡大」は政府が今やるべきことか 日本の20年にも及ぶ長期停滞の真因

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確かに、銀行が国債よりもリスクの高い資産を購入するようになれば、国債の金利は上昇する。しかし、それは景気が回復しているということを意味する。金利の上昇を恐れるということは、景気回復を望まないというに等しい。しかも景気が回復すれば、税収が増えて財政赤字は減少するのである。

それでもなお、何らかの理由で、どうしても金利の上昇を回避したいというのであれば、現在、日本銀行がやっているように、中央銀行が国債を購入すればよいだけの話である。

租税は財源確保ではなくマクロ経済政策の手段

財政赤字の拡大は過度なインフレをもたらすと警告する者もいる。

政府支出の拡大により総需要が過多になれば、インフレが起きるというのは正しい。しかし、この約20年間、日本はデフレ不況の中にいるのである。ということは、総需要が不足しているということである。それは財政赤字が過大なのではなく、むしろ過少であるということを意味する。

政府債務残高が対GDP比で230%を超えようが、それが先進国の中で最悪の水準であろうが、物価が上昇していない以上、日本の財政赤字は少なすぎると言うべきなのだ。

「政府が財政破綻しないというのならば、政府が税金で財源を確保する必要はないというのか」と思われるかもしれない。実は、そのとおりなのである。

ほとんど理解されていないことであるが、租税とは、政府の財源確保の手段ではない。「現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)」が教えるように、租税とは、国民経済に影響を与え、物価水準、雇用水準、金利水準あるいは富の再分配を操作するためのマクロ経済政策の手段なのである。

たとえば増税は、総需要を抑制し、インフレを阻止するために必要となる。反対に、デフレのときに必要となるのは、減税なのである。そう、今の日本に必要なのは消費増税ではなく、消費減税なのだ。

それにもかかわらず、増税や歳出抑制によって財政赤字の削減を目指せば、デフレ不況が悪化し、日本経済は衰退の一途をたどるが、不況による税収減によって財政健全化はかえって遠のくことになる。

要するに、日本経済の20年にも及ぶ長期停滞は、できもせず、すべきでもない財政健全化に固執し続けたことの当然の結果なのである。何も不思議なことではない。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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