「財政赤字の拡大」は政府が今やるべきことか

日本の20年にも及ぶ長期停滞の真因

では、海外部門の収支を操作することにより、財政健全化を目指すことは可能であろうか。

「国内民間部門の収支+国内政府部門の収支+海外部門の収支=0」の等式に従えば、確かに財政赤字の削減は、海外部門の赤字(経常収支の黒字)を増加させることでも相殺できる。しかし、経常収支は、内外の景況や為替レートなどさまざまな要因によって決まるので、それを国家政策によって操作するのは非現実的である。

それに、経常収支黒字の増加を目指す政策というのは、とりわけ現在のように世界的な不況にある中では、輸出によって相手国の市場と雇用を奪うことになる。これはいわゆる近隣窮乏化政策であり、採用すべきものではない。

結局のところ、日本が財政赤字の拡大に歯止めをかけることができないのは、歳出削減の努力が足りないからではない。マクロ経済の構造からして、政府が財政健全化を目指しても、無駄な骨折りに終わるのだ。

日本の財政破綻はありえない

そもそも、日本政府には、財政を健全化する必要などない。

政府は通貨発行の権限を有するので、通貨を増発して債務の返済に充てることができる。

個人や企業であれば債務を返済できなくなって破綻することはありうる。しかし、政府が自国通貨建ての国債の返済ができなくなることは、政治的意志によって返済を拒否しないかぎり、理論的にありえないし、歴史上もそのような例はないのである。

そして日本の国債はほぼ全額が自国通貨建てである。それゆえ、日本政府の財政破綻はありえない。日本は財政危機ではないのだ。

もし日本の財政が危機的ならば、長期金利が急騰していなければおかしい。しかし、2000年代以降、政府累積債務の増大にもかかわらず、長期金利は世界最低水準で推移しており、2016年にはついにマイナスを記録している。

長期金利の低迷の理由は、デフレ不況により資金需要が不足しているからである。デフレ不況であるかぎり、いくら政府債務が累積しようが、金利が高騰することはありえない。実際、ある推計によれば、2000~2007年における財政赤字の1兆円の増加は、長期金利を0.15~0.25bsp(1bspは0.01%)引き上げただけだった。

それでも財政危機論者は、政府債務の累積はいずれ金利の高騰を招くと警鐘を鳴らす。

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