日本株の「円高抵抗力」は結構ついている 株価は動かずしばらく「市場は途方に暮れる」

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経済状況は不透明なものであり、連銀幹部も、今年の利上げが2回、3回、あるいは4回のいずれになるか、現時点では自信を持って予想できてはいまい。市場が決め打ちしてしまうと、決め打ちとは異なる展開になった場合、市場の動揺が大きくなる恐れがある。したがって、「利上げ回数はどうなるかわからないと考えておいてくれ」という連銀の意図だと推察している。

つまり、米国でこれから米ドル安に大きく進む要因が何か存在する、ということではないだろう。今後、大幅な米ドル安円高は見込みにくい。その一方で、購買力平価や日米長期金利差から判断される米ドル円相場の適正水準(詳しくその分析をここで述べる余裕がないので、ご関心がある方は、当方のセミナーにお越しいただきたい)から考えると、大幅な米ドル高円安も予想しがたい。

筆者が自ら開催している「自主開催セミナー」は、定期的に参加なさる方が多く、筆者が以前から「大幅な米ドル高も米ドル安もなさそうだ」と主張していることは、良くご存じだ。しかし大手の金融機関などが主催する大人数のセミナーでこのように述べると、聴衆の方から、強い反発を受けることが多い。「米国経済が好調で、日米金利差も開きそうなのに、なぜ1ドル=120円、130円と米ドル高・円安が進まないのか?」と詰問する方が多いのだ。またそうした方から、「円安が進まないのなら、日本株も上がらないに違いない、それはがっかりだ」という声も多く聞く。

確かに先週後半の国内株価は、米ドル安円高に振れたこともあって、軟調に推移した。今週の連休明けも、当面は円高が日本株の重石となる恐れが強い。しかし、当コラムで何度か述べているように、輸出企業の収益は、円安が進まないにもかかわらず、増益基調を鮮明にしつつある。

この背景には、世界の景気がじわりと持ち直し、その結果日本製品に対する需要がじわりと拡大していることがある。実際のところ、日本からの輸出数量指数は、前年比ベースで、2016年初めから回復基調を示していた。
これも当コラムで述べたように、その結果として米ドル建て日経平均株価が、徐々に上値を追い始めている。つまり、日本株に円安以外の好材料が表れつつある、という点が示されているのだ(以上の点も、再度詳しく述べる余裕がないので、2月5日(日)付の当コラム「日経平均は夏場にかけて2万1000円超えも」をお読みいただきたい)。

しばしのあいだ「そして市場は途方に暮れる」?

このように、先週の大きな諸イベントを波乱なく通過し、さらに中長期的には国内株価は円相場離れを進め、上昇が期待できると考えているが、目先はまだ、「円安にならなければ日本の株価は上がらない」という思い込みにとらわれるだろう。また、今週は先週に比べ、大きな材料に乏しく売買の手掛かりを失って、「そして市場は途方に暮れる」という展開に陥るかもしれない。

ただし、長い目では、次第に国内株価は上値を探っていくことになりそうだ。2月下旬以降、数多く来日している外国人投資家が、個別企業の取材を通じて有望銘柄を発掘し、これから買いに転じる展開もありそうだ。今週はそうした強気相場の前の「力を蓄える期間」と考える。今週の日経平均株価は、1万9400~1万9700円の狭いレンジで推移すると見込む。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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