「車優先」からいち早く転換した米大都市の今 交通を運賃収入に頼らない「公共サービス」に
北米・南米の都市計画を専門とする知人の大学教授によれば、ポートランドではLRTやバスは道路交通とみなされるという。よって高速道路のための財源を公共交通整備に回すことができたそうだ。道路と公共交通が別の管轄になっている日本とは、アーバンモビリティに対する考え方そのものが大きく違うことが分かる。もうひとつ、公共交通の経営状況も日本とは大きく違う。
筆者が乗った平日昼間に限って言えば、ポートランドのMAXライトレールやストリートカーは空いている。これで採算が成り立つのか不安に思うほどだ。でも心配はいらない。日本の多くの公共交通とは経営の考え方そのものが異なるからだ。
トライメットの資料を見ると、2016年度の収入5.42億ドルのうちライトレール、ストリートカー、バスなどの運賃収入は1.18億ドルと約2割に留まり、税金収入が3.25億ドルと半分以上を占めていた。ちなみに支出は6.32億ドルとなっており、9000万ドルの赤字となっている。
交通の位置づけを「公共サービス」に
日本の公共交通は、単一都市圏でも複数の事業者が存在するパターンが多く、運賃収入を主な財源としている。たとえば広島電鉄の2015年度の経営状況を見ると、63.69億円を稼ぐ鉄軌道部門は、そのうち59.09億円を旅客運輸収入が占めている。しかし営業費合計は66.96億円で、3.26億円の損失を出している。
欧米と日本の公共交通の大きな違いがここにある。欧米の公共交通は黒字経営を目指すこと以上に、より良い公共サービスを提供することを重視している。高齢者や子供など、すべての人に等しく移動の便利さを提供するためだ。公立学校や図書館は税金で運用され、道路も税金で作られているわけだから違和感はない。逆になぜ日本の公共交通が民間企業的な運営を強いられているのか不思議に感じる。
日本でも富山市などで、欧米流の公共交通改革が導入されている。しかし財源の多くを運賃収入に頼っているために、人口減少に悩む多くの都市で公共交通の経営も苦しくなっており、交通改革が進まない。
公共交通は学校や道路と同じように公共サービスとして位置づけ、都市交通は単一事業者に統合し、まちづくりと連携して整備を進めていくべきだろう。JR北海道をはじめ、日本各地で公共交通の危機が叫ばれている今こそ、表面を変えることより、内側から生まれ変わらせることが重要だと、ポートランドを訪れて痛感した。
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