あいりん地区で「孤立死」が日常化する意味 例外的な地域と見なす考えは時代遅れだ

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あいりん地区に限定したユニークな取り組みとしては、同地区で活動する5つのNPOと西成区役所の協働による「ひと花プロジェクト」を挙げられる。同プロジェクトは、あいりん地区の単身高齢生活保護受給者の社会的孤立を防ぐことを目的に2013年7月から実施されている。「ひと花センター」を主たる活動拠点に、表現活動、体験学習、農作業、ボランティア活動など多様な取り組みが行われている。

西成区のケースワーカーから紹介された65歳以上の単身高齢生活保護受給者がひと花プロジェクトにかかわっており、2016年3月の時点で合計134人(男性126人、女性8人)が登録している。

筆者がひと花センターの職員に行った聞き取りによると、頻繁に利用する層は30~40人で、彼らにとって同センターは、レクリエーションの場所であると同時に、安心して集える日中の居場所として機能しているという。

一方、登録をしているものの、利用頻度が低いケースや途中から利用が見られなくなるケースも少なくない。彼らは頻繁に利用する層に比べ、社会的孤立に陥りやすいと考えられるが、職員によるアフターフォローは人員の不足から十分にできていない。また、対象が「あいりん地区に在住する65歳以上の生活保護受給者」に限定されているため、利用したくてもできない層が地域内外に多数存在することも課題となっている。

求められる新たな地縁の創造

年々減少しているものの、あいりん地区ではいまだ約500人が野宿生活を余儀なくされている

社会福祉学者の河合克義氏は社会的孤立の問題が生じる背景として「家族ネットワークの希薄化」と「地域ネットワークの希薄化」を挙げている。このことは、あいりん地区においてもはっきりと確認できる。素朴に考えれば社会的孤立の処方箋は「家族ネットワークの再構築」と「地域ネットワークの再構築」に求められるだろう。しかし、血縁関係がきわめて希薄なあいりん地区では、「家族ネットワークの再構築」に期待することは非現実的だ。

一方、「地域ネットワークの再構築」の可能性は残されている。ただし、あいりん地区は著しく低い町内会加入率が示すように、地域住民の組織化が非常に難しい。古くからこの地域で暮らす住民(旧住民層)と生活保護受給などを契機に新たに暮らすようになった住民(新住民層)のあいだの溝も大きい。したがって、求められるのは「旧来の地縁の復活」ではなく、「新たな地縁の創造」であろう。

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