「7人の侍」が実現した、ジャーナリズムの夢 編集部なし、オンラインと専門化で生き残り

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当時、どこも報道しなかったのは、漏洩したディルビットの怖さをどの報道機関も知らず、海洋であるような石油漏洩事故と同じだと判断したからだ。

ICNが、エンブリッジや同社パイプライン管理室、自治体がどう対応したのか事実や動きを資料で集め、時系列に並べ、関係者の証言を集めて臨場感あふれる記事にするまで、7カ月もの月日を費やした。

整理をすると、ディルビットの漏洩は2010年、取材は11年に始まり、記事の掲載は12年、ピュリッツァー賞受賞が今年13年という流れになる。

時間差があったものの、同記事は、エネルギー業界と主要メディアの注目を浴びた。設立5年のオンラインニュースサイトになぜそれができたのか。

「私たちは小さな組織なので、記事を流通させるための戦略が必要。そこで、大きな報道機関と協力し、(記事を掲載してくれる)パートナーを得る道を選んだ」(サスーン)。

最初のパートナーは世界最大の通信社、ロイター通信だ。記者の数2700人(12年現在)、年間210万本の記事を配信するロイターだが、同社ウェブサイト内で、環境問題のニュースを強化し、トラフィックを増やしたいとして、ICNにアプローチしてきた。現在のパートナーは、米通信社大手のブルームバーグ、同じく米通信社大手のAP通信、英有力紙ガーディアンなど4社。新聞、ラジオ、テレビに記事を提供している通信社によって、ICNの記事が多くの大手メディアの紙面やサイトに取り上げられ、無数の読者に到達する。

後追いする大手メディア

そればかりでなく、ICNは伝統的なメディア業界にさえ影響を及ぼしている。

「私が半年前に書いたディルビットの記事を、ブルームバーグが追いかけて報道した」(ソング)。

「大衆雑誌ローリング・ストーンが、石油パイプラインについての記事を書きたいと、情報を求めてきた。私たちの記事は多くの主要メディアに引用されている」(フェルドマン)。

また、見出しにあるディルビットという言葉は、実は辞書にはない、エネルギー業界関係者しか知らない単語だった。読者が敬遠する可能性がある専門用語を、なぜあえて見出しに使ったのか。

「社内でかなり議論した。ディルビットに科学的に問題があることを読者に知らせるためにも、あえて使用した。が、私たちが使ったから、今ではニューヨーク・タイムズをはじめ、どの報道機関も当たり前に使うようになった」(サスーン)。

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