「7人の侍」が実現した、ジャーナリズムの夢 編集部なし、オンラインと専門化で生き残り
「非営利、無党派」に勝機を見いだす
ICNは、気候変動問題の調査報道に特化するオンラインニュースサイトだ。非営利、無党派をうたい、前身だった気候変動についてのブログの立ち上げが2008年と、まだ歴史も浅い。気候変動に焦点を当てたのは、創立者のサスーンが、ブログの立ち上げ前、慈善団体の米ロックフェラー・ブラザーズ財団アナリストとして、環境問題のリポートを手掛けていたからだ。
「これまでのメディアの報道では、気候変動問題はきちんと伝えられてこなかった。そこでブログの資金提供者らと話し合い、気候変動を取り上げることになった。ブログを続けるうちに、少し話を掘り下げて書くと、アクセスが増えることがわかり、気候変動に関する質の高いジャーナリズムのモデルを築くべきではないか、ということになった」(サスーン)。
実は米国では、民主党と共和党の気候変動に対する認識が180度異なり、世論も2分する。民主党は、気候変動は温室効果ガスによるオゾン層の破壊という人為的な原因で起きたという認識だ。しかし、保守的な共和党には、気候変動は人為的な理由によらず、地球温暖化は事実ではないという有権者も多くいる。「気候変動(Climate Change)」という言葉自体が、「地球温暖化(Global Warming)」という事実はありえない、とする保守派の主張で、政治的に生まれた言葉だ。
そのうえ、米国の新聞やテレビは、日本と異なり、読者や視聴者獲得のために政治色を強く報道に出す。このため、気候変動について、中立的で正確なニュースを得ることが極めて困難だ。
こうした背景から、サスーンらは「非営利、無党派」に勝機があると考え、気候変動という専門性の高い分野のジャーナリズムを目指した。
サスーンに会った1週間後、テルアビブに住む共同創立者のステイシー・フェルドマンと、ボストンにいる記者のリサ・ソングに、グーグル・ハングアウトを使ってインタビューし、7人がどうやって連絡を取り合っているのか聞いた。2人は仕事場でもある自宅からインタビューに答えた。
「実は昔ながらのカンファレンスコールを使っている。決まった時間にみんなで指定の電話番号にかけると、電話会議ができる仕組み。私たちはまだいろいろ試行錯誤でやって、成長しているところもある」(フェルドマン)。
「編集部があるのはぜいたくとも言える。歩いて行って、記者に話しかけてコミュニケーションが取れる。でも、バーチャルで運営している利点は、テーマさえ共有していれば、記者がお互いに助け合って、各地からの視点のニュースをまとめることができること」(同)。
ピュリッツァー賞を受賞した「ディルビットの惨事:知られざる最悪の石油漏洩の真実(The Dilbit Disaster:Inside the Biggest Oil Spill You’ve Never Heard Of)」は、ミシガン州などで起きた石油パイプラインの漏洩事故を取り上げた。ワシントンにいる記者がミシガン州、ボストンにいるソングがネブラスカ州で取材。カリフォルニア州にいる寄稿者のひとりが調査を一手に引き受け、同じくカリフォルニア州の編集者がまとめたバーチャル共同作業だ。
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