書店店長の「平凡な香港人」が語る自由の重み

禁書販売で中国に拘束、自殺も考えた顛末

香港から中国へ向かう玄関口・九龍塘駅の改札口の外で、林氏はいら立ちながらたばこを3本吸った。何度も考えた。そして中国に戻らないことを決意する。これまでの生涯、読書を愛してきた。いく度となく、長い夜ともに過ごしてくれた書物の中の言葉が、脳裏によみがえって来た。

「人間は、負けるために創られたのではない」。

それはヘミングウェイが『老人と海』で書いた言葉だ。林氏は負けてはいなかった。生存と自由の問題に直面し、平凡な人間が決断を行った。「本がなければ、私がこのような決意をすることはなかったでしょう」。

「禁煙というのは難しいと思いますか。私にとっては、まったく難しくありません」。林氏は獄中にいたとき、1本のたばこも吸わなかった。だが出獄後から吸い続けている。「人間にとって、自由が失われたとき、それ以外のいかなるものも重要ではありません。命ですらそうなのです。再び自由を取り戻した時、過去に直面した問題はどれも問題ではありません」。

たばこを吸うように自由を吸う

自由を取り戻した林氏にとって、たばこを絶つことはできない。たばこを吸うことは、「自由」を吸っていることと同じなのだ。

今回の台湾訪問で、林氏は静かにブックフェアを見て回り、書店をめぐって、台湾の出版事情を知りたかっただけだ。が、メディアや市民、友人らは、訪問にそれぞれの思いを込めて、さらには過度な想像と期待を持った。それがわかっていた。それでも何も言わない。「私にとって害がなければ、皆さんがそれぞれ必要なだけ私を使ってもらえばそれでよいのです」。

もし「流亡」を職業としているなら、多少なりとも理想を口にするはずだ。しかし、林氏はそれを語らない。トランプ米大統領の登場や中台関係といった大きな話よりも、一冊一冊の本に愛情と関心を注ぐ。この家に集まっている、流亡の英雄たちからすれば、ひときわ寡黙だ。

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