住宅ローンの借り手も条件も限界にきている 追い詰められた銀行の住宅ローン狂想曲

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それにしても、0.5%などという低金利で、銀行は儲かるのだろうか。

融資業務のコストには、調達コスト、営業経費、貸し倒れ費用の3つがある。現在、預金金利はほぼゼロであるため、調達コストはひとまず無視できる。企業向け融資だと定期的に借り手を訪問するなどのメンテナンスが必要だが、住宅ローンの場合、人手がかかるのは最初だけだ。このため営業経費は、ローン残高の0.2%程度で済む。さらに、借り手は、返済が苦しくても何とか返済を続けて住み続けたいと考えるため、住宅ローンの貸し倒れ損失率は、わずか0.06~0.08%程度にとどまっている。これらの諸費用を0.5%のローン金利から差し引いても、0.2%程度の利益は残る(金利リスクヘッジ等のコストは考慮していない)。

ただしこれは、あくまで貸し倒れや預金金利が低位にとどまることが前提だ。単純計算では、預金金利が0.2%以上上昇するか、貸し倒れが毎年1000人に4人(=貸倒率0.4%、その半額が住宅を売却して回収できると仮定)に増加しただけで、利益は吹き飛ぶ。

現在、預金金利も貸倒率も安定している。ローンを返せなくなった人の住宅の競売はリーマンショック後、減少傾向にある。ただし、幅広い層の人々が借りられるようになった結果、借りたはいいが返済が難しくなって、自主的な「任意売却」で泣く泣く物件を手放す人は徐々に増えているもようだ。ある任意売却専門機関によれば、2016年の相談件数は前年より10%増えて過去最高になったという。

金利が上昇したらどうなるのか

また、日本では欧米と比較して長期間固定金利で借りる人の割合が低い。金利上昇懸念から、足元では変動金利型で借りる人の比率は減少傾向にあるが、それでも4割程度となっている。これらの借り入れは、金利の上昇とともに返済額が増加し貸し倒れにつながる可能性がある。

このため、変動金利の住宅ローンには、1回の金利引き上げによる総返済額の増加率は25%まで、返済額の見直しは5年ごとに限る、という「5年、125%ルール」が設けられている。たとえば、月々元利合計で10万円返済している場合、市場金利が大幅に上昇してしまっても、月々の支払額は最大でも12.5万円とされる。それでは引き上げ幅が足りなかった場合、5年後にまた引き上げる。それでもあふれた金額は、最終期限日の支払いに全額上乗せされる。金利上昇局面では、最終返済日の支払いが図らずも巨額になる可能性がある。

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